大質量星団は、銀河最強クラスの宇宙線加速器だった
100年来の謎「宇宙線の起源」解明に大きく前進
岐阜大学工学部の 佐野栄俊 准教授と、名古屋大学大学院の 福井康雄 名誉教授らの研究チームは、国立天文台、オーストラリアの西シドニー大学、アデレード大学などとの共同研究により、銀河系最大の質量をもつ星団Westerlund 1(ウェスタールンド1)において、銀河最強クラスの宇宙線注1)が発生していることを世界で初めて示しました。
本研究は、ガンマ線望遠鏡H.E.S.S.による最新の観測成果と、名古屋大学や岐阜大学などが南米チリで共同運用するNANTEN2電波望遠鏡、ならびに国立天文台のアステ電波望遠鏡で得られた星間雲注2)の観測結果を詳細に比較することで得られました。
本研究によって、大質量星団ウェスタールンド1周辺から放射されている高エネルギーガンマ線注3)が、宇宙線陽子によって発生していることが明らかになりました。ウェスタールンド1は、銀河最強クラスの宇宙線加速器「PeVatron(ペバトロン)注4)」のひとつであるとみられ、100年来の謎とされてきた宇宙線の起源解明に大きく前進しました。
また、本研究の副産物として、ウェスタールンド1星団そのものの形成過程も明らかになりました。2つの異なる分子雲(高密度な星間雲)が、秒速20キロメートル以上の速度差で、およそ400-500万年前に衝突したことで、銀河系最大の質量をもつ星団が誕生したと考えられます。
本研究成果は、2026年6月10日付で天文学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル」に掲載されました。

(a) H.E.S.S.ガンマ線望遠鏡によるウェスタールンド1の周りのガンマ線画像と、(b) ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による星団中心部の赤外線画像
本研究のポイント
- 大質量星団「ウェスタールンド1」に付随する星間雲を電波観測で初めて特定しました。
- 星間雲分布とガンマ線注分布の一致から、ウェスタールンド1周辺のガンマ線が、宇宙線陽子と星間雲の衝突によって発生したことを明らかにしました。
- ウェスタールンド1は、銀河最強クラスの宇宙線加速器「ペバトロン」のひとつであることを示しました。
- 星間雲同士の「衝突」によって星団が形成された痕跡も発見しました。
詳しい研究内容について
大質量星団は、銀河最強クラスの宇宙線加速器だった
〜100年来の謎「宇宙線の起源」解明に大きく前進〜
論文情報
用語解説
宇宙から地球に降り注ぐ高エネルギー粒子放射線。宇宙線の主成分は陽子で、その10分の1のヘリウム原子核と、100分の1以下の電子・その他の原子核から構成される。蛍光灯ひとつは3電子ボルトのエネルギーを放つが、銀河系で最も高い宇宙線のエネルギーは約3,000兆(3×1015または3ペタ)電子ボルトと言われている。これは、地球上にある粒子加速器で実現できる最大エネルギーの400倍以上に相当する。
星と星の間を満たす、水素からなるガス状の塊。中性水素原子から構成される低密度星間雲(1~100個/cc程度)を原子ガス雲、中性水素分子を主成分とする高密度星間雲(約1,000個/cc以上)を分子雲と呼ぶ。この分子雲が何らかの仕組みで圧縮されることで、太陽のような自ら光る星(恒星)が生まれる。
電磁波のひとつで、波長が約0.01ナノメートルよりも短いものを指す。ガンマ線を放射する物理過程は複数存在し、そのひとつが陽子起源ガンマ線であり、宇宙線の陽子が星間雲中の陽子(水素)と衝突することで発生する。このときガンマ線の光度分布は、宇宙線の標的となる星間雲の密度分布と一致する(正の相関を示す)ことが知られている。
3,000兆(3×1015)電子ボルトに匹敵する、銀河系で最大のエネルギーを持つ宇宙線を加速(発生)できる天体の総称。ペバトロンの正体については、ブラックホールや大質量星団、超新星爆発などの候補天体種族が提案されているものの、議論が続いている。