研究・採択情報

免疫介在性中枢神経疾患の病態メカニズムを解明:疾患活動性や再発リスクを反映する新規バイオマーカー「TNFRSF9」を発見

 岐阜大学大学院医学系研究科脳神経内科学分野の木村暁夫臨床教授、下畑享良教授、竹腰顕助教、同研究科寄生虫学・感染学分野の前川洋一教授らの研究グループは、藤田医科大学、聖マリアンナ医科大学、新潟大学との共同研究により、自己免疫性グリア線維性酸性タンパク質アストロサイトパチー(autoimmune glial fibrillary acidic protein astrocytopathy: GFAP-A)(注1)の病態解明と治療法確立につながる知見を発表しました。
 GFAP-Aは、脳や脊髄で炎症が生じる免疫介在性中枢神経疾患です。ステロイド治療が有効である一方、難治例や再発例が存在し、認知機能障害や歩行障害などの後遺症を伴う例も少なくありません。
 研究の結果、患者の脳脊髄液中で「TNFRSF9(Tumor Necrosis Factor Receptor Superfamily Member 9)(注2)」が上昇し、疾患活動性や重症度、再発と関連していることが分かりました。TNFRSF9は、活性化T細胞・NK細胞に発現する共刺激受容体で、細胞表面型・分泌型が存在します。TNFRSF9が、GFAP-A患者の中枢神経内においてCD8陽性T細胞の活性化やサイトカイン産生と関連し、本疾患の病態に関与している可能性が推測されました。さらに、TNFRSF9は、新たなバイオマーカーおよび治療標的となる可能性が示され、今後の治療法開発への貢献が期待されます。
 本研究成果は、現地時間2026年7月17日にNeurology誌のオンライン版で発表されました。

図

本研究のポイント

  • GFAP-Aは、脳や脊髄に炎症が起こる免疫介在性中枢神経疾患の一つですが、その病態機序は十分に解明されておらず、確立した治療法もありません。
  • 本研究では、GFAP-A患者の脳脊髄液中で、活性化T細胞やNK細胞に発現する共刺激受容体「TNFRSF9」が、他の神経疾患と比較して有意に増加していることを明らかにしました。
  • 脳脊髄液中のTNFRSF9濃度は、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α)(注3)およびアストロサイト障害マーカーであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)との相関が認められました。さらに、臨床像との比較検討により、疾患活動性や重症度、さらには再発リスクを反映する有望なバイオマーカーとなる可能性が示されました。
  • 本研究成果は、GFAP-Aの病態解明を進展させるだけではなく、新たな治療標的の探索や治療法の確立につながることが期待されます。

詳しい研究内容について

免疫介在性中枢神経疾患の病態メカニズムを解明:
疾患活動性や再発リスクを反映する新規バイオマーカー「TNFRSF9」を発見

論文情報

  • 雑誌名:Neurology
  • 論文名:Involvement of TNFRSF9 in the Pathogenesis of Autoimmune Glial Fibrillary Acidic Protein Astrocytopathy
  • 著 者:Akio Kimura, Akira Takekoshi, Yoichi Maekawa, Keiko Tanaka, Yoshihisa Yamano, Kuniaki Saito, Masao Takemura, Yasuko Yamamoto, Takayoshi Shimohata
  • DOI:10.1212/WNL.0000000000218306

用語解説

  • (注1) 自己免疫性GFAPアストロサイトパチー(autoimmune GFAP astrocytopathy: GFAP-A)
    近年新たに確立された免疫介在性中枢神経疾患であり、患者の脳脊髄液中において、アストロサイトに発現する中間径フィラメントの一つであるglial fibrillary acidic protein(GFAP)に対する自己抗体(GFAP抗体)が検出されることにより診断されます。
    本疾患の発症年齢の中央値は50代ですが、小児から高齢者まであらゆる年齢層に発症し、男性に多い特徴があります。一般的に髄膜脳炎・髄膜脳脊髄炎を呈しますが、臨床像は多彩であり、頭痛や発熱を初期症状として、その後、意識障害、振戦・ミオクローヌス・運動失調などの運動異常症、認知機能障害、排尿障害を比較的高頻度に認めます。視神経乳頭浮腫や呼吸障害をきたし人工呼吸器管理を必要とすることもあります。頭部造影MRIにて、側脳室周囲にみられる線状血管周囲造影病変、脊髄MRIにて、3椎体以上に及ぶ連続性の長大脊髄病変を合併することもあります。治療としてはステロイド療法が有効である一方、治療開始後6か月以降も日常生活に介助を要する患者が一定数存在し、再発率は10.5%とされ、認知機能障害、排尿障害、歩行障害を後遺症として残すことがあります。

  • (注2) TNFRSF9(別名:CD137または4-1BB)
    腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーに属する分子であり、膜結合型および可溶型の両形態で存在します。主にT細胞(特にCD8陽性細胞傷害性Tリンパ球)やNK細胞に発現し、抗原提示細胞との相互作用や炎症環境下でその発現が誘導されることが知られています。TNFRSF9はリガンドとの結合によりT細胞の増殖、生存およびサイトカイン産生を促進し、免疫応答を増強する機能を有します。

  • (注3) 炎症性サイトカイン
    免疫細胞(マクロファージ、T細胞、樹状細胞など)から分泌され、炎症反応を促進するシグナル伝達蛋白です。主な炎症性サイトカインとしてTNF-α(Tumor Necrosis Factor-α)、IL-1β(Interleukin-1β)、IL-6、IFN-γ(Interferon-γ)等が知られています。