宇宙ジェットが分子雲に衝突する現場を発見
SS 433のX線ジェット再増光の謎に迫る
山口大学大学院創成科学研究科(理学系学域)の酒見はる香 助教(兼・国立天文台野辺山宇宙電波観測所 特任助教)らの研究グループは、岐阜大学工学部電気電子・情報工学科 応用物理コースの佐野栄俊 准教授(兼・大学院自然科学技術研究科知能理工学専攻応用数学物理領域 准教授、工学部附属宇宙研究利用推進センター 准教授)、福井康雄 研究員(兼・名古屋大学理学研究科 名誉教授)、国立天文台科学研究部の町田真美 准教授、アルマプロジェクトの永井洋 准教授などとの共同研究により、銀河系内のマイクロクエーサーSS 433*1から東西に伸びる大規模X線ジェット*2の再増光領域に、分子雲*3が存在することを野辺山45m電波望遠鏡*4による観測で明らかにしました。分子雲の位置とX線放射の分布を比較したところ、X線は分子雲のすぐ下流側で明るくなり、よりエネルギーの高いX線放射も分子雲表面付近で強くなることがわかりました。これは、SS 433のジェットが星間分子雲に衝突し、その衝突によって周囲の磁場が強められることで、X線ジェットが再び明るく輝いている可能性を示す成果です。
この研究成果は"Discovery of CO Clouds Associated with the X-ray Jets of SS 433: Evidence for Shock-Cloud Interaction Enhancing Nonthermal X-ray Emission" として、米国の天文学誌「The Astrophysical Journal Letters」に2026年6月9日 (日本時間)に掲載されました。

(A) 銀河系内のマイクロクエーサーSS 433の周辺を、X線と電波で見た合成画像。オレンジはX線で明るく輝く大規模ジェット構造、シアンは野辺山45 m電波望遠鏡で観測した一酸化炭素分子が放つ電波を示す。白い星印はSS 433の位置を表す。SS 433から東西に伸びるX線ジェットの再増光領域に、分子雲が存在していることがわかる。
(B, C) (A)の緑色で示した、SS 433の東側および西側のX線ジェット再増光領域を拡大した図。背景の色は野辺山45 m電波望遠鏡で観測した分子雲の分布を、等高線はX線放射の分布を示す。東西両側の再増光領域で、分子雲とX線放射が空間的に対応していることがわかる。この対応関係は、SS 433のジェットが周囲の星間分子雲と相互作用している可能性を示す重要な手がかりである。
本研究のポイント
- SS 433の大規模X線ジェット再増光領域に付随する分子雲を、野辺山45m電波望遠鏡による電波輝線観測で初めて同定した。
- 東西両側のジェットで、X線放射が分子雲の下流側で強くなることを明らかにし、ジェットと分子雲の相互作用を示す観測的証拠を得た。
- ジェットと星間物質の相互作用による乱流・磁場増幅がX線ジェットの再増光を引き起こすという新たな描像を提示し、コンパクト天体ジェットの放射が周囲の星間環境によってどのように変化するかを理解する手がかりを得た。
詳しい研究内容について
宇宙ジェットが分子雲に衝突する現場を発見
-SS 433のX線ジェット再増光の謎に迫る-
論文情報
用語解説
わし座の方向にある連星系。ブラックホールまたは中性子星と考えられるコンパクト天体と伴星からなり、光速の約26%という非常に高速なジェットを東西方向に噴き出している。ジェットとは、天体の近くから細く絞られて高速に噴き出すプラズマの流れのことである。SS 433は、コンパクト天体を含む連星系から強いジェットが噴き出す「マイクロクエーサー」の代表例である。
X線で明るく輝いて見えるジェット構造。SS 433では、中心天体の近くだけでなく、中心から離れた東西の領域にも大規模なX線ジェット構造が存在する。
主に水素分子からなる低温で高密度の星間ガスの雲。水素分子は直接観測しにくいため、一酸化炭素分子(CO)が放つ電波を手がかりに分布を調べることが多い。
長野県南佐久郡南牧村にある国立天文台野辺山宇宙電波観測所の電波望遠鏡。ミリ波帯の電波観測に用いられ、星間分子ガスの観測などで多くの成果を上げてきた。