研究・採択情報

乳児の健康を支える「母乳オリゴ糖」をつくる培養細胞を開発

細胞で糖鎖の合成経路を再構築し、多様な母乳オリゴ糖のつくり分けに成功

 岐阜大学糖鎖生命コア研究所の藤田 盛久 教授、木塚 康彦 教授、中嶋 和紀 准教授らの研究グループは、京都大学大学院生命科学研究科の片山 高嶺 教授、加藤 紀彦 准教授らの研究グループとの共同研究で、一般的な培養細胞の中に母乳オリゴ糖(HMO1))の合成経路を再構築することに成功しました。
 母乳には、乳児の栄養となる脂質やタンパク質だけでなく、HMOと呼ばれる多様な糖鎖が豊富に含まれています。HMOは腸内の有用な細菌を選択的に増やしたり、病原体の感染を防いだりするほか、免疫機能や腸・脳の発達を支える重要な役割を担っています。
 研究グループは、哺乳動物由来の培養細胞株において、HMO合成の出発点となる乳糖2)をつくるための因子「α-ラクトアルブミン(LALBA3))」が欠けていることに着目しました。LALBA遺伝子を導入すると、細胞内の既存の糖鎖合成装置が働き始め、複数種類のHMOが培養液中に分泌されました。さらに、細胞内でHMOを作る酵素の量を変えることで、合成されるHMOの組成を大きく変えることにも成功しました。本研究は、HMOの「作られる仕組み」を解明し、自在に作り分ける新しい技術への道を開くものであり、腸内細菌研究、さらには健康・医療分野への幅広い応用が期待されます。
 本研究成果は、日本時間2026年6月20日にMetabolic Engineering誌のオンライン版で発表されました。

研究概要
培養細胞株の中でHMOの合成を再構築

本研究のポイント

  • 通常は母乳オリゴ糖(HMO)をつくらない培養細胞株に、α-ラクトアルブミン(LALBA)を導入し、HMOの合成経路を再構築しました。
  • 早産児や低体重児でみられる壊死性腸炎4)の予防因子として注目されているジシアリルラクト-N-テトラオース(DSLNT5))など、少なくとも8種類のHMOを生産しました。
  • HMOの合成に関わる酵素の組み合わせを変えることで、HMOの種類と割合を調節できることを示しました。
  • 培養細胞でつくったHMOは、乳児腸内に多く存在するビフィズス菌の増殖を促す活性も確認されました。
  • 本成果は、複雑なHMOの生合成機構を解明し、目的に応じたHMOを設計・生産するための新しい研究基盤となります。

詳しい研究内容について

乳児の健康を支える「母乳オリゴ糖」をつくる培養細胞を開発
-細胞で糖鎖の合成経路を再構築し、多様な母乳オリゴ糖のつくり分けに成功-

論文情報

  • 雑誌名:Metabolic Engineering
  • 論文名:Reconstitution of Human Milk Oligosaccharide Biosynthesis in Cultured Mammalian Cells
  • 著 者:Fuki Noda, Aika Ohno, Aruto Nakajima, Hiroko Ichihashi, Kazuki Nakajima, Yasuhiko Kizuka, Takane Katayama, Toshihiko Katoh, and Morihisa Fujita
  • DOI:10.1016/j.ymben.2026.102494

用語解説

  • 1) HMO
    母乳オリゴ糖(ヒトミルクオリゴ糖)。母乳に豊富に含まれる遊離の糖鎖の総称。乳糖を土台に、フコースやシアル酸などが付加された多様な構造を持ちます。乳児の腸内細菌叢や感染防御に関与します。
  • 2) 乳糖
    グルコース(ブドウ糖)とガラクトースが結合した二糖類で、母乳や牛乳に最も多く含まれる糖です。乳児の主要なエネルギー源であるとともに、HMOが合成される際の出発材料(骨格)となります。
  • 3) LALBA
    α-ラクトアルブミン。乳糖合成酵素複合体の調節サブユニット。B4GALT1と組み合わさることで、グルコースにガラクトースを付加して乳糖を合成します。
  • 4) 壊死性腸炎
    主に早産児や低出生体重児に発症する重篤な腸の病気。腸の組織が炎症を起こして壊死し、重症化すると命に関わることがあります。母乳栄養や特定のHMOが発症リスクを低下させる可能性が報告されています。
  • 5) DSLNT
    2個のシアル酸を持つ複雑なHMOで、早産児や低体重児でみられる壊死性腸炎の予防因子として注目されています。