特定の酵素の作用によって「溶ける/固まる」新しいゼリー素材を開発
病原体を閉じ込め、効果的に薬剤を届ける次世代ゲル
岐阜大学大学院 連合創薬医療情報研究科3年の杉浦 進太郎さんと工学部 化学・生命工学科の池田 将 教授らの研究グループは、特定の酵素の作用によって「溶ける」「固まる」といった状態変化を起こす新しいゼリー状素材の開発に成功しました。
例えば、老化に関わる酵素「β-ガラクトシダーゼ(注1)」がある環境では、ゼリーが溶け、内部に封入した物質を放出することができます。一方、インフルエンザウイルスに関連する酵素「ノイラミニダーゼ(注2)」がある環境では、ナノファイバーへと構造変化し、ゼリー状に固化してナノ物質を内部に閉じ込めることができます。
本成果は、感染症の予防・抑制や、標的部位における医薬品の精密な放出(ドラッグデリバリー)などへの応用が期待されます。
本研究成果は、世界最大の出版社のひとつ、Wiley-VCH刊行の学術雑誌「Small」に、日本時間2026年6月3日にオンライン版発表されました。

研究概要
糖修飾環状ジペプチド c-IYS [ I = Isoleucine (イソロイシン), Y = Tyrosine (チロシン), S (Sugar) = Gal (galactose:ガラクトース) または Neu5Ac (N-acetylneuraminic acid: N-アセチルノイラミン酸, sialic acid:シアル酸) ]は水溶液中で自己集合してナノ構造体を形成します。さらに、特定の糖加水分解酵素に応答して、「溶ける」「固まる」といった状態変化を示します。
本研究のポイント
- 老化関連酵素「β-ガラクトシダーゼ」の作用によって溶解し、あらかじめ内部に封入しておいた医薬品などを放出することができる新しいゼリー状材料の開発に成功しました。
- インフルエンザウイルスに関与する酵素「ノイラミニダーゼ」の作用によって凝集し、ゼリー状に固まるナノ粒子の開発に成功しました。
- 特定の酵素の作用によって「溶ける」「固まる」といった状態変化を分子レベルで制御できる、新たな分子設計技術(糖修飾環状ジペプチド(注3))を確立しました。
詳しい研究内容について
特定の酵素の作用によって「溶ける/固まる」新しいゼリー素材を開発
-病原体を閉じ込め、効果的に薬剤を届ける次世代ゲル-
論文情報
- 雑誌名:Small 22, e73943 (2026).
- 論文名:Modular Molecular Design and Self-assembled Nanostructures of Saccharide‑Appended Cyclic Dipeptides for Glycosidase‑Responsive Supramolecular Hydrogels
- 著 者:Shintaro Sugiura, Ryuta Tanaka, Sayuri L. Higashi, Aya Shibata, Koichiro M. Hirosawa, Kenichi G.N. Suzuki and Masato Ikeda*
- DOI:10.1002/smll.73943
用語解説
- 注1 β-ガラクトシダーゼ
糖を分解する酵素の一種で、ラクトースなどのガラクトースを含む糖を加水分解する働きを持つ。生体内では細胞の老化に伴って活性が高まることが知られており、老化細胞の指標として広く利用されている。 - 注2 ノイラミニダーゼ
インフルエンザウイルスが持つ酵素で、細胞表面の糖鎖の末端にあるシアル酸(細胞間相互作用やウイルス結合に関与する糖)を切断する働きを持つ。ウイルスの増殖・拡散に重要な役割を果たすため、抗インフルエンザ薬の標的となっている。 - 注3 環状ジペプチド
2つのアミノ酸が結合してできたジペプチドが、環状(リング状)構造をとった分子のこと。通常の直鎖状ペプチドに比べて構造が安定であり、分子同士の相互作用を精密に設計しやすいことから、自己集合材料や機能性分子の設計に利用されている。