日本人の僧帽弁輪石灰化に伴う僧帽弁狭窄症の長期予後を解明
5年生存率57%、非心臓死が主要因であることを多施設共同研究で初めて明らかに
岐阜大学大学院医学系研究科循環器内科学の大倉宏之 教授と同大学医学部附属病院検査部・循環器内科の渡邉崇量 講師、東京ベイ浦安市川医療センターの加藤奈穂子 医師らの研究グループは、日本国内11施設で実施した多施設共同研究(Japan Multicenter Mitral Annular Calcification:JAMAC)において、僧帽弁輪石灰化(MAC)(注1)に伴う僧帽弁狭窄症患者の5年間の長期予後を、日本で初めて解析しました。
MACは高齢化に伴い、心臓の僧帽弁の周囲(僧帽弁輪)が石灰化していく疾患です。石灰化が僧帽弁輪から弁葉に伸展すると、弁の開放が制限され、僧帽弁狭窄症を引き起こします。しかし、長期予後や死因の詳細については、これまで海外の報告のみで、日本における多施設規模での検討は行われていませんでした。
本研究では、日本国内の施設において2016〜2017年に経胸壁心臓超音波検査を施行し、MAC合併かつ僧帽弁平均圧較差(TMG)≧5 mmHgを満たす264例(中央値年齢78歳、女性73%)を対象に5年間の追跡調査を行い、死亡率・死因・弁関連予後因子を検討しました。その結果、MACに伴う僧帽弁狭窄症患者の5年生存率は57%と低く、特に、感染症や臓器不全、脳卒中といった「非心臓死」が主要因であることを明らかにしました。
本研究成果は、2026年3月4日に、米国心臓病学会誌『Journal of the American College of Cardiology(JACC)』誌のオンライン版で発表されました。

本研究のポイント
- 心臓の僧帽弁の周囲に石灰が沈着する「僧帽弁輪石灰化(MAC)」により生じる僧帽弁狭窄症について、日本で初めて多施設共同で長期予後を追跡研究しました。
- 5年生存率は57%と低く、特にMAC関連の僧帽弁狭窄症では「非心臓死(感染症・臓器不全・脳卒中など)」が死因の主体(5年非心臓死亡率28%)であることを初めて明確に示しました。
- 僧帽弁の開口部の大きさを示す指標(僧帽弁口面積(注2))が、1.5cm²未満の場合、年齢・慢性腎臓病とは独立した死亡予測因子となり、石灰化性僧帽弁狭窄症のリスク層別化に有用であることを実証しました。
- 僧帽弁は前尖と後尖に分かれますが、特に後尖MACが高度な場合や、前尖にまでMACが及ぶ場合は、予後不良と関連していることが分かりました。また、慢性腎臓病・高年齢はMAC進展の独立した危険因子であることを示しました。
詳しい研究内容について
日本人の僧帽弁輪石灰化に伴う僧帽弁狭窄症の長期予後を解明
-5年生存率57%、非心臓死が主要因であることを多施設共同研究で初めて明らかに-
論文情報
- 雑誌名:Journal of the American College of Cardiology (JACC)
- 論文名:Mitral Annular Calcification-Related Mitral Stenosis: 5-Year Outcomes and Prognostic Determinants in the JAMAC Study
- 著 者:Nahoko Kato, Takatomo Watanabe, Takuma Ishihara, Nobuyuki Kagiyama, Maika Shimizu, Yukio Abe, Yoshiki Matsumura, Tetsuari Onishi, Yasushi Ichikawa, Koki Nakanishi, Yasuki Nakada, Nozomi Fukuda, Chisato Izumi, Shinichi Kurashima, Yoshihiro Seo, Shohei Kikuchi, Nozomi Watanabe, Keiko Nagatomo, Yuki Izumi, Ayumi Nakabo, Masao Daimon, Hiroyuki Watanabe, Hiroyuki Okura
- DOI:10.1016/j.jacc.2025.12.004
用語解説
- (注1) 僧帽弁輪石灰化(Mitral Annular Calcification:MAC)
心臓の左心房と左心室の間にある僧帽弁の「弁輪」(弁の根元にあたる環状の組織)にカルシウムが沈着し、石灰化が生じた状態を指します。加齢・慢性腎臓病・動脈硬化などを背景に進行する退行性変化であり、高齢者に多く認められます。石灰化が弁輪から弁葉にまで及ぶと弁の開閉が妨げられ、僧帽弁狭窄症の原因となります。 - (注2) 僧帽弁口面積(Mitral Valve Area:MVA)
僧帽弁が開いたときの開口部の大きさを示す指標で、心臓超音波検査(心エコー)によって計測されます。正常では4〜6cm²程度ですが、狭窄が進むにつれて小さくなります。本研究では1.5cm²未満を重症狭窄の目安とし、この基準を下回る患者では死亡リスクが有意に高いことが示されました。石灰化性僧帽弁狭窄症ではその特殊な弁形態から計測が技術的に難しい場合がありますが、リスク層別化において重要な指標です。