研究・採択情報

前がん病変の遺伝子発現が肝発がんのリスクを予測

肝がんの「前兆」をMYCN遺伝子の空間特徴スコアで発見

 理化学研究所(理研)生命医科学研究センター細胞機能変換技術研究チームの秦咸陽上級研究員、鈴木治和チームディレクター、千葉県がんセンター研究所の筆宝義隆研究所長、同進化腫瘍学研究室の末永雄介室長、岐阜大学大学院医学研究科消化器内科学の清水雅仁教授、同腫瘍病理学の富田弘之准教授、同大学医学部附属病院第一内科の白上洋平講師、東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座の古谷裕准教授らの共同研究グループは、MYCNタンパク質[1](以下、MYCN)が肝発がん(原発性肝がん)を促進する機能を証明し、肝発がんリスクを予測するためのMYCN遺伝子[1]発現の空間局在性を示す空間特徴スコアを開発しました。
 本研究成果を応用することで、前がん病変の分子特徴とその空間局在が明らかになり、早期介入による肝がん患者の予後やQoL[2]の向上に貢献することが期待されます。
 今回、共同研究グループは、MYCN遺伝子をマウス肝臓に導入することで、肝腫瘍形成が促進されることを実験的に証明しました。次に、空間トランスクリプトーム解析[3]を用いて、肝発がんモデルマウスの肝組織におけるMYCN遺伝子発現の時空間的変動を追跡し、肝がん幹細胞様特徴シグナルを有するMYCN高発現領域(「MYCNニッチェ(niche)[4]」)を同定しました。さらに、機械学習を用いてMYCNニッチェの空間的特徴を数値化する「MYCNスコア」を開発し、非腫瘍組織におけるMYCNスコアが、肝がん再発リスクと強く相関することが明らかとなりました。
 本研究は、科学雑誌『Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)』オンライン版(2月18日付)に掲載されました。

研究概要図
研究概念図

詳しい研究内容について

前がん病変の遺伝子発現が肝発がんのリスクを予測
-肝がんの「前兆」をMYCN遺伝子の空間特徴スコアで発見-

論文情報

  • 雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)
  • 論文名:Oncogenic function and transcriptional dynamics of MYCN in liver tumorigenesis
  • 著 者:Xian-Yang Qin, Yali Xu, Hricha Mishra, Yohei Shirakami, Shiou-Hwei Yeh, Chiao-Ling Li, Kazushi Numata, Yusuke Suenaga, Feifei Wei, Reiko Ando, Hajime Nishimura, Erina Furuhata, Shiori Maeda, Yutaka Furutani, Kaori Yanaka, Masahiro Yamamoto, Masanori Goto, Akira Takasawa, Yuji Nishikawa, Hiroyuki Tomita, Luc Gailhouste, Tomokazu Matsuura, Pei-Jer Chen, Masahito Shimizu, Yoshitaka Hippo, Harukazu Suzuki
  • DOI:10.1073/pnas.2521923123

用語解説

  • [1] MYCNタンパク質、MYCN遺伝子
    MYCN(ミックエヌ)タンパク質は、特定のDNA配列に結合して標的遺伝子の発現を制御する転写因子MYCファミリーの一つ。細胞の増殖や分化、代謝などの重要な生命活動を調節する。MYCN遺伝子はこのMYCNタンパク質をコードしており、神経芽腫をはじめとするさまざまながんで異常な活性化や増幅が見られ、がん遺伝子として知られる。
  • [2] QoL
    病気の有無だけでなく、日常生活の過ごしやすさ、身体的・精神的な快適さ、社会生活を含めた総合的な暮らしの質を表す概念。QoLはQuality of Lifeの略。
  • [3] 空間トランスクリプトーム解析
    組織切片上で遺伝子発現(トランスクリプトーム)を測定し、その発現情報を組織内の位置情報と対応付けて解析できる技術。これにより、「どの遺伝子が、組織のどの場所で発現しているか」を地図のように可視化することができる。
  • [4] ニッチェ(niche)
    周囲の細胞や環境から影響を受けながら、特定の細胞が性質や機能を維持している微小環境。