研究・採択情報

落葉広葉樹林とスギ・ヒノキ人工林で水温は違うのか? ~位山演習林の長期モニタリングで実証~

 東海国立大学機構 岐阜大学応用生物科学部の大西健夫教授、平松研教授、株式会社ユニオンの千家正照名誉教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の乃田啓吾准教授、自然科学技術研究科修了生(現:農林水産省東海農政局木曽川水系土地改良調査管理事務所)の柳原未伶さんを中心とした研究グループは、岐阜大学応用生物科学部附属岐阜フィールド科学教育研究センター位山演習林において対照流域法※1による長期水文観測を継続実施しており、今回、水域生態系に重要な影響を及ぼす水温形成に対して、植生の相違が決定的であることが実証的に示されました。
 本研究成果は、現地時間2025年11月27日に水文学の国際誌であるJournal of Hydrology誌のオンライン版で発表されました。

図
落葉広葉樹天然生林(左)とスギ・ヒノキ人工林の温度環境の違い。
上段の図は気温、深度5cmの地温、水温の比較。中段は深度5cmと50cmの地温の比較、下段は深度5cmの地温と水温の差の比較。

本研究のポイント

  • 岐阜大学応用生物科学部附属岐阜フィールド科学教育研究センター位山演習林における長期の水文観測データに基づき、落葉広葉樹天然生林※2とスギ・ヒノキ人工林という植生の違いが、渓流水温の違いも生み出すことを実証的に明らかにしました。
  • スギ・ヒノキ人工林は落葉広葉樹天然生林と比べて、年水温変動幅は2.8℃大きく、夏季の最高水温は1.1℃高く、冬季の最低水温は1.6℃低くなることがわかりました。また落葉広葉樹天然生林は、特に夏季降雨時における水温緩和の程度が大きいことがわかりました。
  • 両植生流域間における水温の相違は「水文」流出機構の相違と連関しており、落葉広葉樹天然生林における流出に占める地下水寄与の割合が高いことが、水温変動をより小さなものとする(水温を緩和する)ことに寄与していることを定量的に明らかにしました。
  • 森林が有する洪水緩和機能や水資源涵養機能といった水資源に関わる評価はこれまでに多数なされてきましたが、水域生態系に決定的な影響を及ぼす水温に関する水源域における研究蓄積は不十分であり、本研究の成果は、貴重な基礎データと知見を提供するものです。

詳しい研究内容について

落葉広葉樹林とスギ・ヒノキ人工林で水温は違うのか?
〜位山演習林の長期モニタリングで実証〜

論文情報

  • 雑誌名:Journal of Hydrology
  • 論文名:How the hydrothermal regime differs between artificially planted coniferous and secondary deciduous forests
  • 著 者:大西健夫、柳原未伶、千家正照、平松研、乃田啓吾
  • DOI:10.1016/j.jhydrol.2025.134651

用語解説

  • ※1 対照流域法:
    隣接した流域間での比較をすることにより、気象、地質、地形の違いを排除して、植生の相違が流域の水文特性に及ぼす影響のみを取り出す方法です。
  • ※2 落葉広葉樹天然生林:
    樹木の生育のために何らかの形で人の補助が入った落葉広葉樹林のことを指し、人の手の介入がわずかか皆無である天然林や原生林と区別して使用される用語です。