In vivo細胞外表面ビオチン標識技術を開発
細胞外にTurboIDを発現するラットの作出に成功
岐阜大学 工学部 自然科学技術研究科修士1年の井藤 茶羅さん、中村 克行 助教、上田 浩 教授、纐纈 守 教授、高等研究院 One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター (COMIT)の村田 知弥 特任准教授、東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医生理学教室の山内 啓太郎 教授、NOMON株式会社(現NOMON & Co株式会社)の狩野 理延 博士、中島 良太 博士、山名 慶 博士らの研究グループは、特定の細胞の細胞膜外側に存在するタンパク質を特定することを目的に、ビオチンリガーゼTurboID注1)を細胞外に発現させ、細胞表面をビオチン標識するラットを開発しました。これはTurboIDを細胞膜タンパク質CD28注2)に融合する形で発現させたところ、細胞表面がビオチン化されたものです。また、TurboIDの発現を制御するため、Cre/LoxPシステム注3)を取り入れ、ラットのRosa26遺伝子座にノックインした細胞外TurboIDノックインラットを作出しました。このラットから細胞を単離し、Creを発現させたところ、細胞膜の外側の領域がビオチン標識されていることを確認しました。
本研究は、生体内において、細胞膜外側のビオチン標識が可能となる系を構築した点に新規性があり、Creを発現する組織や細胞に限定して特徴解析が実施できます。さらに、ラットはマウスと比較してヒト病態の再現性が高く、よりヒト病態に近いモデルでの細胞の特徴解析が可能となり、新たな創薬標的の発見が期待できます。
本研究成果は、現地時間2025年11月28日にBiochemical and Biophysical Research Communications誌のオンライン版で発表されました。
本研究の概要
本研究のポイント
- 標的タンパク質近傍のタンパク質をビオチン標識できる近位依存性ビオチン化(BioID)法は細胞内相互作用解明に広く使用されてきましたが、細胞外での応用は限られています。
- TurboIDを細胞膜タンパク質CD28に融合させることで、細胞表面をビオチン化させることに成功しました。
- TurboID-CD28にCre/LoxPシステムを導入することで、TurboIDをCre特異的に発現する細胞外TurboIDノックインラットを新たに作出しました。
詳しい研究内容について
In vivo細胞外表面ビオチン標識技術を開発
- 細胞外にTurboIDを発現するラットの作出に成功 ー
論文情報
- 雑誌名:Biochemical and Biophysical Research Communications
- 論文名:Generation of Cre/LoxP-mediated extracellular TurboID knock-in rats with CRISPR/Cas9 system
- 著 者:Sara Ito, Katsuyuki Nakamura*, Kazuya Murata, Ryota Nakajima, Masanobu Kanou, Mamoru Koketsu, Kei Yamana, Keitaro Yamanouchi, Hiroshi Ueda
(*: 責任著者) - DOI:10.1016/j.bbrc.2025.152898
用語解説
- 注1) TurboID
大腸菌由来のビオチンリガーゼBirAに変異を加えることで作製されたタンパク質の一つ。高活性かつ、短時間でのビオチン化が可能である。ビオチンはビタミンB群の一種で、タンパク質にビオチンが付与されると、このビオチンを目印に解析したいタンパク質のみを単離することができるメリットがある。 - 注2) CD28
免疫細胞の細胞膜上にあるタンパク質。膜貫通領域は、細胞療法をはじめ、臨床で用いられる膜タンパク質である。 - 注3) Cre/LoxPシステム
Creリコンビナーゼという部位組換え酵素がLoxPという短い回文配列を認識してLoxP間の配列を除去、または反転させる反応。遺伝子発現を時空間的に制御するために遺伝子工学領域で多用されている。