研究・採択情報

オオヒラタザトウムシが3種に分けられることを発見

 岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程3年の加藤貴範さん、応用生物科学部の土田浩治教授および岡本朋子准教授の研究グループは、日本の森林に生息するオオヒラタザトウムシ(Leiobunum japanense 以下、本種)を対象に、ミトコンドリアDNA(mtDNA)(注1)および核遺伝子座のSNP(注2)を用いて、遺伝的多様性や進化の過程を調べました。
 その結果、これまで形態に基づき東日本と西日本の2亜種に分けられてきた本種が、遺伝的には「東日本系統」・「西日本系統」・「九州系統」の3つの系統に明瞭に分かれることが判明しました
 特に、「九州系統」は形態的には「西日本系統」と区別が困難であるものの、遺伝的には大きく異なっており、独自の進化系統である可能性が示されました。
 さらに、分岐年代の推定から、「九州系統」は約380万年前に琉球列島のグループから分化し、「東日本系統」と「西日本系統」は約280万年前に「九州系統」から分化したと推定されました。また、「西日本系統」では、mtDNAハプロタイプが広範囲で共有されている一方、SNPを用いた解析では地域ごとに細かな遺伝的分化が認められました。この結果は、メスがオスよりも広く移動する可能性を示唆しますが、この傾向は「東日本系統」には認められませんでした。これら2系統間では繁殖行動や生態的特性が異なっている可能性を示しています。
 本研究成果は、日本時間2025年11月3日に国際誌のZoological Journal of Linnean Societyのオンライン版で発表されました。

オオヒラタザトウムシ3系統の分布図および各系統の標本写真

オオヒラタザトウムシ3系統の分布図および各系統の標本写真
地図中の黒点は採集地点を示す。着色部分は赤が西日本、青が東日本、緑が九州系統の推定分布域を示す。標本写真のスケールバーは4mm。

本研究のポイント

  • これまで形態に基づき東日本と西日本の2亜種に区別されていたオオヒラタザトウムシは、遺伝的には「東日本系統」・「西日本系統」・「九州系統」に明瞭に分かれることが明らかになりました。
  • 「九州系統」は形態的には「西日本系統」と区別が困難ですが、遺伝子的には「西日本系統」と明瞭に異なる系統であり、隠蔽種(注3)の可能性が高いことがわかりました。
  • 「九州系統」は約400万年前に琉球列島のグループから分化し、残りの2系統が「九州系統」から分化したのは約280万年前であると推定されます。
  • 「西日本系統」ではメスの方がオスより広範囲に分散している一方、「東日本系統」ではそのような傾向は認められませんでした。また、「東日本系統」の分布は「西本系統」より局地的に分布していました。
  • 「西日本系統」と「東日本系統」の違いは、2系統の交尾様式も分化していることが原因のひとつであると推察されました。

詳しい研究内容について

オオヒラタザトウムシが3種に分けられることを発見

論文情報

  • 雑誌名:Zoological Journal of the Linnean Society
  • 論文名:Contrasting patterns of divergence and gene flow in subspecies of a forest-dwelling harvestman Leiobunum japanense (Eupnoi: Opiliones: Arachnida)
  • 著 者:加藤貴範,土田浩治,岡本朋子
  • DOI:10.1093/zoolinnean/zlaf143

用語解説

  • (注1) ミトコンドリアDNA(mtDNA)
    細胞の中にある「ミトコンドリア」という小器官に含まれるDNA。両親から遺伝する核DNAと異なり、母親からのみ遺伝する。遺伝様式の違いから、mtDNAと核DNAの集団構造は様々な要因で不一致を起こす。
  • (注2) SNP(Single Nucleotide Polymorphism)
    ある生物のゲノム上における遺伝子の置換現象。個体間の関係性を細かく分析でき、集団の遺伝構造を調べる際に用いられる。本研究では核DNA領域の変異を調べるためにSNPを用いた。
  • (注3) 隠蔽種
    形態的には差異がみられないが、遺伝的には明らかな差異がみられる種。