糖鎖合成酵素がタンパク質を選ぶ仕組みを解明 〜がん関連糖鎖の制御への応用に道〜
 岐阜大学糖鎖生命コア研究所の木塚 康彦教授、連合農学研究科博士課程3年の大須賀 玲奈さんらの研究グループは、大阪大学、広島大学、熊本大学、藤田医科大学との共同研究で、がん関連糖鎖を作る酵素GnT-Vが、生体内で糖鎖を付けるタンパク質を選ぶ仕組みを解明しました。
 タンパク質に付く糖鎖1)には膨大な種類が存在しており、その形はタンパク質によって異なります。これら糖鎖は、細胞の中で様々な糖鎖合成酵素の働きによって作られ、多くの重要な役割を担っています。また、これら酵素の働きが異常となって特定の糖鎖が増減すると、様々な疾患を引き起こすことも報告されています。一方で、個々の糖鎖合成酵素が、タンパク質を選んで糖鎖を作る仕組みはよくわかっていませんでした。
 本研究では、がんや自己免疫疾患に関わる糖鎖を作る酵素、GnT-V2)(MGAT5とも呼ばれる)、に着目し、マウスの腎臓を用いて、生体内で本酵素がどのように糖鎖を付けるタンパク質を選んでいるかを調べました。その結果、GnT-Vは、腎臓の尿細管の内側に存在する2つのタンパク質のにおいて、特定の部位に糖鎖を付けることがわかりました。さらにこれは、2つのタンパク質が細胞の中を通る経路や、タンパク質の立体構造によって決まることを明らかにしました。以上の成果は、体の中で複雑な糖鎖が作られる仕組みの解明と、GnT-Vが関わるがんや自己免疫疾患の病態解明へつながることが期待されます。
 本研究成果は、現地時間2025年10月28日にiScience誌のオンライン版で発表されました。 
 
 本研究の概要図
本研究のポイント
- GnT-Vは、がんの悪性化や自己免疫疾患に関わる糖鎖を作る酵素で、特定のタンパク質に糖鎖を付けることがわかっています。
- GnT-Vは、腎臓において、尿細管の内側にある2つのタンパク質を選んで糖鎖を作ることがわかりました。
- GnT-Vによるタンパク質への糖鎖の付加には、タンパク質の立体構造や細胞内を通る経路が重要であることがわかりました。
詳しい研究内容について
糖鎖合成酵素がタンパク質を選ぶ仕組みを解明
 ~ がん関連糖鎖の制御への応用に道 ~
論文情報
- 雑誌名:iScience
- 論文名:Selective modification of glycoprotein substrates by GnT-V in mouse kidney
- 著 者:Reina F. Osuka, Masamichi Nagae, Miyako Nakano, Shunsuke Tanigawa, Kazuya Ono, Yudai Tsuji, Yoshimasa Ito, Kazuo Takahashi, Ryuichi Nishinakamura, Yasuhiko Kizuka* (*共同責任著者)
- DOI:10.1016/j.isci.2025.113894
用語解説
- 1) 糖鎖
 グルコース (ブドウ糖) などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖は数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。
- 2) GnT-V
 糖鎖を合成する糖転移酵素の一種で、細胞の中のゴルジ体に存在し、β1,6分岐と呼ばれる糖鎖の枝分かれ構造を作る。
 
         
         
         
         
     
     
     
     
     
     
    