研究・採択情報

GLP-1受容体作動薬の治療効果と"食行動のクセ" - 個別化治療への第一歩 -

 岐阜大学大学院医学系研究科 糖尿病・内分泌代謝内科学の小出祐也大学院生、加藤丈博准教授、恒川新教授、京都大学医学部附属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科の矢部大介教授および岐阜大学医学部附属病院、松波総合病院、岐阜市民病院、岐阜県総合医療センターの4つの医療機関のメンバーで構成されるG-DIET研究チームは、近年2型糖尿病や肥満症の治療薬として注目されているGLP-1受容体作動薬について、その血糖値や体重に対する効果に個人差がある点に着目し、GLP-1受容体作動薬治療を開始する2型糖尿病をもつ人を対象とした前向き観察研究を実施しました。
 GLP-1受容体作動薬による治療を1年間継続した結果、HbA1c(過去1〜2カ月間の血糖管理状態を示す指標)や体重、体脂肪率がいずれも有意に改善しました。特に、食べ物の見た目や匂いなどの外的な刺激に反応して食べてしまう"外発的摂食行動"は、長期的に抑制される一方、怒りや不安といった感情の変化に起因する"情動的摂食行動"や、減量や健康管理を目的として意識的に食事を制限する"抑制的摂食行動"は、一時的な変化にとどまり、長期的な改善は得られにくいことも示されました。
 さらに、治療開始前に"外発的摂食行動"の傾向が強い人ほど、治療後の体重減少や血糖コントロールの改善効果が大きいことが確認されたことから、治療開始前に質問紙を用いて個々の"食行動の特性"を把握することで、GLP-1受容体作動薬の効果をある程度予測でき、より効果的な治療選択につながる可能性が示唆されました。
 本研究成果は、日本時間2025年9月17日に、国際学術誌Frontiers in Clinical Diabetes and Healthcareのオンライン版にて発表されました。

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GLP-1受容体作動薬の治療効果と"食行動のクセ"~多施設共同前向き観察研究~

本研究のポイント

  • 2型糖尿病や肥満症の治療薬として注目されているGLP-1受容体作動薬は、食べ物の見た目や匂いといった外的な刺激によって引き起こされる"外発的摂食行動"が長期間にわたり抑制されることがわかりました。
  • 一方で、怒りや不安といった感情の変化によって生じる"情動的摂食行動"や、減量や健康管理を目的として意識的に食事を制限する"抑制的摂食行動"に対する影響は、持続しにくいことも明らかとなりました。
  • GLP-1受容体作動薬の治療開始前に"外発的摂食行動"の傾向が強い人ほど、治療開始後の体重減少や血糖コントロールの改善効果が大きいことが示されました。
  • 治療開始前に質問紙を用いて"食行動のクセ"を把握することで、GLP-1受容体作動薬の効果を予測し、より効果的な治療選択につなげられる可能性が示唆されました。

詳しい研究内容について

GLP-1受容体作動薬の治療効果と"食行動のクセ"
- 個別化治療への第一歩 -

論文情報

  • 雑誌名:Frontiers in Clinical Diabetes and Healthcare
  • 論文名:Association between eating behavior patterns and the therapeutic efficacy of GLP-1 receptor agonists in individuals with type 2 diabetes: A multicenter prospective observational study
  • 著 者:Yuya Koide, Takehiro Kato, Makoto Hayashi, Hisashi Daido, Takako Maruyama, Takuma Ishihara, Kayoko Nishimura, Shin Tsunekawa, Daisuke Yabe, and G-DIET Investigators
    Corresponding author
  • DOI:10.3389/fcdhc.2025.1638681

用語解説

  • GLP-1受容体作動薬:
    GLP-1はインクレチンと呼ばれ、食事をすると腸から分泌され、血糖値を下げるのを助けてくれます。GLP-1は、すい臓にあるβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促し、血糖値を改善します。また、血糖を上げる働きのあるグルカゴンの分泌を抑えることでも、血糖値の上昇を防ぎます。さらに、GLP-1には食欲を抑える働きもあり、その結果として体重を減らす効果も期待できます。これらの働きを活かした治療薬がGLP-1受容体作動薬です。この薬は、血糖値や体重を改善するだけでなく、最近の研究では心筋梗塞や脳梗塞、腎臓病などのリスクを下げる効果もあることがわかってきました。そのため、肥満をともなう2型糖尿病や肥満症の治療薬として、世界的に大きな注目を集めています。