脳発達に不可欠な受容体分子の新たな役割を発見
胎生期の脳発達においてタンパク質恒常性を制御
岐阜大学 応用生物科学部の橋本美涼助教、中川寅教授(高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター (COMIT)兼任)らの研究グループは、(プロ)レニン受容体[(P)RR注1]の脳組織発達への関わりを解明しました。
ヒトにおいて、(P)RRの遺伝子変異は神経変性やパーキンソニズムの病態を示すことが知られています。本研究では脳全体で(P)RRを欠損したモデルマウスを用いて、脳の発生過程における(P)RRの機能を詳細に追跡し、その重要性を明らかにしました。
本研究は、脳発生におけるタンパク質の品質管理(プロテオスタシス注2)の重要性を示すものであり、神経発達を伴う疾患の病態解明に貢献する可能性があります。
本研究は同大学糖鎖生命コア研究所の木塚康彦教授、筑波大学生存ダイナミクス研究センターの深水昭吉特命教授、東京女子医科大学の市原淳弘教授、富山大学和漢医薬学総合研究所の金俊達准教授との共同研究で行われました。
本研究成果は、日本時間2025年8月15日にThe Journal of Biochemistry誌のオンライン版で発表されました。

胎生期脳発達における(プロ)レニン受容体の機能解析
本研究のポイント
- 神経幹細胞注3における(プロ)レニン受容体欠損が、脳の構造異常と誕生前後の致死を引き起こすことをマウスモデルで明らかにしました。
- (プロ)レニン受容体欠損により、マウス脳内での細胞死やミクログリア活性化、神経細胞の分化異常など、脳の発達に重篤な変化が生じました。
- 本研究は、胎児期の脳形成におけるオートファジーとリソソーム機能の重要性を示すものであり、神経発達障害の新たな理解につながります。
詳しい研究内容について
脳発達に不可欠な受容体分子の新たな役割を発見
胎生期の脳発達においてタンパク質恒常性を制御
論文情報
- 雑誌名:The Journal of Biochemistry
- 論文名:Neural stem cell-specific deficiency of (pro)renin receptor causes brain malformation and perinatal lethality in mice
- 著 者:Misuzu Hashimoto*, Tsutomu Nakagawa* 他
- DOI:10.1093/jb/mvaf047
用語解説
- 注1 (P)RR:
細胞膜やリソソームなどの細胞小器官に存在し、血圧調節酵素レニンおよびその前駆体(プロ)レニンをリガンドとする1回膜貫通型の受容体分子。この受容体機能とは独立した機能により、多様な細胞・臓器でシグナル伝達や発生・老化における重要性が知られている。 - 注2 プロテオスタシス:
タンパク質の恒常性を示す言葉で、タンパク質の合成や折りたたみ、分解が正常に保たれた状態を意味する。本研究では、(P)RR欠損脳でタンパク分解機構であるリソソーム分解やオートファジーの破綻が見られた。 - 注3 神経幹細胞:
中枢神経系(脳と脊髄)の大元となる幹細胞。胎生期から生後にかけて、活発に自己複製を繰り返した後、神経細胞やグリア細胞を生み出し、それらが脳機能を担う。神経変性疾患等に対する神経幹細胞の移植治療研究が進められており、再生医療の観点からも注目されている。