稲妻の衝突が作り出す放射線バースト ー金沢での多波長観測で発生メカニズムに迫るー
岐阜大学工学部のウ・ティン准教授、大阪大学大学院工学研究科の和田有希講師、近畿大学理工学部の森本健志教授らの研究グループは、石川県金沢市で冬に発生する雷の放射線・電波・可視光を用いた多波長観測※1を実施し、雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際に「地球ガンマ線フラッシュ」と呼ばれる雷放電と同期した放射線バーストが発生することを世界で初めて明らかにしました。
近年の研究により、雷放電や雷雲から放射線が発せられていることが明らかになっています。地球ガンマ線フラッシュは、雷放電に同期して数十マイクロ秒という極めて短時間の放射線を発生させる現象です。雷放電が「加速器」となって、大気中の電子を光速近くまで加速させることで発生すると考えられていますが、雷放電のどのようなプロセスが放射線を発生させるかといったメカニズムはこれまで解明されていません。
研究グループは、冬季に金沢市の金沢観音堂テレビジョン送信所への落雷が多発することに着目し、最新の機器を集めた集中観測を実施したところ、2023年1月30日10時13分29秒(日本時間) に地球ガンマ線フラッシュの検出に成功しました。放射線・電波・可視光による観測によって、雷雲から地上に向けて下降する放電路と、送信所の鉄塔から雷雲に向かって上昇する放電路を検出し、それらが衝突して落雷に至る直前に、地球ガンマ線フラッシュが発生していることを突き止めました。これにより雷放電がどのようにして放射線を発生させるか、その詳しいメカニズムの解明が期待されます。
本研究成果は、米国科学振興協会が出版するオープンアクセス誌「Science Advances」に、5月22日(木)午前3時(日本時間)に掲載されました。

金沢市のテレビジョン送信所から上昇する放射線バーストを発生させた雷放電
本研究のポイント
- 世界的に珍しい冬の雷が多発する金沢市で、放射線・電波・可視光による雷放電の集中観測を実施
- 雷雲から下降する稲妻と地上から上昇する稲妻が衝突する際の強い電場によって、「地球ガンマ線フラッシュ※2」と呼ばれる放射線バーストが発生することを解明
- 発生源を特定したことで、雷が「加速器」となって放射線を作り出すメカニズムの解明に期待
詳しい研究内容について
稲妻の衝突が作り出す放射線バースト ー金沢での多波長観測で発生メカニズムに迫るー
論文情報
- 雑誌名:Science Advances
- 論文名:Downward Terrestrial Gamma-ray Flash Associated with Collision of Lightning Leaders
- 著 者:Yuuki Wada, Takeshi Morimoto, Ting Wu, Daohong Wang, Hiroshi Kikuchi, Yoshitaka Nakamura, Eiichi Yoshikawa, Tomoo Ushio, and Harufumi Tsuchiya
- DOI:10.1126/sciadv.ads6906
用語解説
- ※1 多波長観測:
電波、可視光、X線・ガンマ線 (放射線の一種) はいずれも電磁波の一種であり、それぞれ波長/エ ネルギーが異なる。複数の波長を用いた観測は多波長観測と呼ばれる。波長によって観測できる現象が異なるため、複数の波長を組み合わせることでより多くの情報を得ることができる。近年ではブラックホールの観測など天文学で多波長観測が行われつつある。 - ※2 地球ガンマ線フラッシュ:
大気中で放射線が一時的に強く放出される放射線バーストの一種で、雷放電と同期しており、継続時間は数十マイクロ秒と極めて短い。雷雲から宇宙に向かって放出されるものが人工衛星で多く観測されているが、雷雲から地上に向かって下向きに放出されるものも少数ながら観測されている。