アキレス腱断裂:生理的な腱再生をもたらすシグナルを同定
PI3K-Aktシグナルは腱細胞と腱滑膜細胞の細胞増殖能、細胞遊走能、幹細胞性を制御して生理的腱再生をもたらす
岐阜大学 整形外科の後藤篤史(現 山内ホスピタル)、河村真吾特任講師、秋山治彦教授らの研究グループは、東京大学 分子病理学分野 山田泰広教授、東京大学医科学研究所 システム疾患モデル研究センター 小沢学准教授、田口純平特任助教、愛媛大学 プロテオサイエンスセンター 今井祐記教授、東京科学大学 システム発生・再生医学分野 淺原弘嗣教授、松島隆英助教、東京科学大学 生体材料工学研究所 岸田晶夫教授、東洋大学 生命科学部生体医工学科 木村剛教授との共同研究で、腱の再生に関わる重要なシグナル伝達経路であるPI3K-Aktシグナルを発見しました。
腱は再生能力が低いため、成人・高齢者の腱損傷後の修復には年単位を要し、健常な状態へ再生することは困難です。一方、小児の腱損傷においては治癒期間も短く、再断裂や癒着をきたしにくいです。本研究では、加齢に伴い変化する腱再生能力を規定する分子制御機構を解析し、PI3K-Aktシグナルを同定しました。PI3K-Aktシグナルは腱再生の細胞源である腱細胞(Scx+細胞)と腱滑膜細胞(Tppp3+細胞)の細胞増殖能、細胞遊走能、幹細胞性を制御していることを明らかにしました。本成果は、治療に難渋する成人・高齢者の腱疾患・外傷に対する新規治療法開発の足掛かりになると期待されます。
本研究成果は、日本時間2025年4月20日にNature Communications誌のオンライン版で発表されました。

若齢マウスと高齢マウスのアキレス腱損傷後(5日目)のRNAシーケンス解析
本研究のポイント
- 若齢マウスに備わる生理的腱再生を制御するシグナルとしてPI3K-Aktシグナルを同定しました。
- 若齢マウスのアキレス腱損傷モデルにおいて、PI3K-Aktシグナルを抑制すると、再生腱の菲薄化、力学的強度の低下、歩行能力の低下をもたらしました。
- PI3K-Aktシグナルは再生腱の細胞源である腱細胞(Scx+細胞)と腱滑膜細胞(Tppp3+細胞)の細胞増殖能、細胞遊走能、幹細胞性を制御していることを明らかにしました。
詳しい研究内容について
アキレス腱断裂:生理的な腱再生をもたらすシグナルを同定
PI3K-Aktシグナルは腱細胞と腱滑膜細胞の
細胞増殖能、細胞遊走能、幹細胞性を制御して生理的腱再生をもたらす
論文情報
- 雑誌名:Nature Communications
- 論文名:PI3K-Akt signalling regulates Scx-lineage tenocytes and Tppp3-lineage paratenon sheath cells in neonatal tendon regeneration
- 著 者:Goto A, Komura S*, Kato K, Maki R, Hirakawa A, Aoki H, Tomita H, Taguchi J, Ozawa M, Matsushima T, Kishida A, Kimura T, Asahara H, Imai Y, Yamada Y, Akiyama H. *Corresponding author
- DOI:10.1038/s41467-025-59010-y
研究サポート
本研究は以下の支援を受けて実施しました。
- 公益社団法人武田科学振興財団 医学系研究助成
- 日本学術振興会 科学研究費助成事業 研究活動スタート支援(16H06845)、 若手研究(18K16617) 、基盤研究(C)(18K09101)、基盤研究(B)(21H03052、23K21465)
- 先端モデル動物支援プラットフォーム JSPS科研費 JP18K09101(AdAMS)、JP18K16617(AdAMS)
用語解説
- RNAシーケンス:
次世代シーケンサーを使用して遺伝子発現を網羅的に解析する手法。 - Scx:
腱細胞で特異的に発現する遺伝子Scleraxisの略。 - Tppp3:
遺伝子Tubulin Polymerization Promoting Protein Family member 3の略。腱滑膜細胞マーカーとして使用される。