研究・採択情報

細菌が環境中の鉄の存在を「知る」しくみを解明

膜タンパク質の多段階切断を介して、細胞外の情報が細胞内へ伝達される

 岐阜大学大学院医学系研究科の横山達彦助教、久堀智子准教授、永井宏樹教授と京都大学医生物学研究所の秋山芳展教授らの研究グループは、奈良先端科学技術大学院大学と理化学研究所との共同研究で、細菌が環境の鉄イオンを感知する分子メカニズムを解明しました。本研究成果は、現地時間2025年4月17日にProceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS)誌のオンライン版で発表されました。
 生命は、生存に不可欠な元素である鉄を取り込むために、巧妙なシステムを進化させてきました。効率的に鉄を取り込むために、細菌は外界の鉄を感知することができますが、その分子メカニズムの全容はこれまで不明でした。細菌は鉄を取り込む際に、分子モーター1)が生み出す機械的な力を利用することが知られています。本研究ではこの力が、情報伝達を担う膜タンパク質2)「FecR」にも伝わり、FecRの連続的な切断を引き起こすことを突き止めました。そして、こうして生じたFecR断片が、鉄の取り込みに必要な遺伝子群の発現を誘導することを明らかにしました。本成果は、タンパク質切断を介した情報伝達の新たなメカニズムを提示し、生体機能制御の基盤となる仕組みの一端を明らかにしたものです。

202504.png グラム陰性細菌が外界の鉄を感知する機構

本研究のポイント

  • 細菌は環境中の鉄を効率的に取り込むために、外界の鉄を感知できることが知られています。本研究では、その分子メカニズムの一端を解明しました。
  • 細菌は分子モーターが生み出す機械的な力を使って、鉄を細胞内に取り込みます。本研究ではこの力が、鉄の取り込みだけで無く、鉄の感知にも利用されていることを発見しました。
  • その機械的な力は、細菌が持つ膜タンパク質の一つに伝えられ、それによってこの膜タンパク質が連続した切断を受けることで、鉄が外界に存在するという情報が細胞内へと伝達されることを明らかにしました。

詳しい研究内容について

細菌が環境中の鉄の存在を「知る」しくみを解明
膜タンパク質の多段階切断を介して、細胞外の情報が細胞内へ伝達される

論文情報

  • 雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
  • 論文名:Cleavage cascade of the sigma regulator FecR orchestrates TonB-dependent signal transduction
  • 著 者:Tatsuhiko Yokoyama*, Ryoji Miyazaki, Takehiro Suzuki, Naoshi Dohmae, Hiroki Nagai, Tomoya Tsukazaki, Tomoko Kubori*, Yoshinori Akiyama*
    (*Corresponding authors)
  • DOI: 10.1073/pnas.2500366122

用語解説

  • 1) 分子モーター: 細胞内で化学的なエネルギー等を機械的な動きに変換する生体分子。
  • 2) 膜タンパク質: 膜で機能するタンパク質。