過去100年間における根尾谷淡墨桜の真の開花日・ 満開日・満開終了日・開花終了日を推測
気候変動の理解を深めるための、地域の人々による長期観測記録の重要性を示した
国立研究開発法人海洋研究開発機構 地球環境部門の永井 信 主任研究員、岐阜県本巣市在住の藤原 博龍、本巣市文化財保護審議員の杉山 新次郎、名古屋大学の森本 宏 名誉教授、岐阜大学 高等研究院環境社会共生体研究センターの斎藤 琢 准教授らの研究グループは、日本三大桜のひとつである岐阜県本巣市に位置する根尾谷淡墨桜(ねおだにうすずみざくら;図1)1)を対象に、従来の半経験的な統計モデルや機械学習による手法とは全く異なる概念に基づき、ベイズ推定2)による状態空間モデル3)の推測という手法を応用した開花季節モデルを開発し、過去100年間における真の開花日・満開日・満開終了日・開花終了日(散り果て)(直接観測できない「真の開花・満開・満開終了・開花終了の状態」)を推測しました。開花季節モデルの構築と推測精度の検証において、上述の藤原氏をはじめとする当地域の人々により観測された長期記録を用いた点は独創的です。
本研究の成果は、気候変動が桜の開花季節に及ぼす影響の理解を深め、開花日や満開日などの予測精度を向上させるための知見となります。社会に広く公開されていない学術的にみて価値が高い地域の記録を探し、気候変動研究に役立てていくことが今後の重要な課題です。
本研究は、日本時間2025年2月6日にPLOS One誌(オンライン)において原著論文として掲載されました。

図1 満開の根尾谷淡墨桜(2016年4月6日、杉山新次郎撮影)
発表のポイント
- 岐阜県本巣市に位置する根尾谷淡墨桜(ねおだにうすずみざくら)を対象に、過去100年間における真の開花日・満開日・満開終了日・開花終了日を推測しました。
- 従来の半経験的な統計モデルや機械学習による手法とは全く異なる概念に基づき、ベイズ推定による状態空間モデルの推測という手法を応用した、汎用性の高い開花季節モデルを開発しました。
- 開花季節モデルの構築と推測精度の検証のため、地域の人々による長期観測記録を活用しました。
詳しい研究内容について
過去100年間における根尾谷淡墨桜の真の開花日・満開日・満開終了日・開花終了日を推測
気候変動の理解を深めるための、地域の人々による長期観測記録の重要性を示した
論文情報
- 雑誌名:PLOS One
- 論文名:Estimation of true dates of various flowering stages at a centennial scale by applying a Bayesian statistical state space model
- 著 者:Nagai Shin, Hakuryu Fujiwara, Shinjiro Sugiyama, Hiroshi Morimoto, Taku M. Saitoh
- DOI:10.1371/journal.pone.0317708
用語解説
- 1) 根尾谷淡墨桜:
樹齢1500年余ともいわれる日本国指定(大正11年)の天然記念物に位置付けられる彼岸桜(Cerasus itosakura)。 - 2) ベイズ推定: ベイズの定理に基づいて、観測の結果からその原因や背景(見えない状態)を推論すること(参考文献:見えないものをさぐるーそれがベイズ 〜ツールによる実践ベイズ統計〜 藤田一弥著 オーム社 2016など)。
- 3) 状態空間モデル: 観測結果を用いて、直接観測することができない見えない状態(真の状態)を解明し、予測するための時系列モデル(参考文献:時系列分析と状態空間モデルの基礎 RとStanで学ぶ理論と実装 馬場真哉著 プレアデス出版 2018など)。