金属酵素の活性制御を応用して人工細胞の運命制御に成功
岐阜大学高等研究院の東小百合 特任助教は、ドイツ・ミュンスター大学のSeraphine V. Wegner教授らとの共同研究により、巨大リポソーム※1 内の金属酵素※2 の活性を制御する技術を確立し、外部からの刺激 (金属イオン) に応じて異なる運命を辿る人工細胞の開発に成功しました。
近年、細胞現象の理解およびバイオ材料への応用を目指し、人工的に細胞を創る試みが活発に行われています。これまでは、多くの中から1つの細胞現象に絞って再構築する研究が進展してきました。一方、今後の課題は、多くの細胞現象を1つの人工細胞で再現することにあります。私たちの細胞は細胞膜上にトランスポーターやチャネル、受容体など様々な膜タンパク質を持ち、周囲の変化に応じた機能を発揮します。
本研究では、細胞サイズの巨大リポソーム膜に特定の金属イオンを透過させるイオノフォア※3 を結合し、輸送された金属イオンによって異なる機能を示す人工細胞を開発しました。互いに機能の異なる3種類の金属(依存性)酵素を巨大リポソームに同時に内包することで人工細胞を作製し、イオノフォアによる金属イオン輸送で金属酵素の活性を制御することに初めて成功しました。さらには、最初に活性化された金属酵素が人工細胞の運命を決定し、他の経路の活性化を抑制する仕組みも実証しました。
本研究成果は、2024年12月23日にNature Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

発表のポイント
- 特定の金属イオンを刺激として認識し、異なる機能を示す人工細胞を開発しました。
- 金属イオンを選択的に輸送するイオノフォアを人工細胞膜に結合させることで、人工細胞内の金属依存性酵素を選択的に活性化し、特定の機能を発現させることに成功しました。
- 膜に結合するイオノフォアの種類や順序が、人工細胞内での酵素活性化の順番を決定し、最初に活性化された酵素がその後の細胞運命を決定することを実証しました。
詳しい研究内容について
論文情報
- 雑誌名:Nature Chemistry
- 論文名:Adaptive Metal Ion Transport and Metalloregulation-Driven Differentiation in Pluripotent Synthetic Cells
- 著 者:Sayuri L. Higashi,# Taniya Chakraborty,# Yanjun Zheng,# Azadeh Alavizargar, Andreas Heuer, Seraphine V. Wegner* (#: equal contribution)
- DOI:10.1038/s41557-024-01682-y
用語解説
- ※1 巨大リポソーム(Giant unilamellar vesicles, GUV):
細胞膜モデルとして使用される、細胞サイズのリポソーム。内部に物質を封入できるため、人工細胞の構築に用いられている。 - ※2 金属(依存性)酵素:
活性化に特定の金属イオンを必要とする酵素。金属イオンの種類によって反応の特異性や活性が変わり、実際の細胞内において重要な役割を担う。 - ※3 イオノフォア:
特定の金属イオンの膜透過性を高める分子群。細胞膜を介して特定の金属イオンを濃度勾配にしたがって輸送させることで、細胞内外のイオン濃度や酵素活性を制御する。