研究・採択情報

糖鎖の生合成を糖鎖自身が制御する仕組みを発見

糖鎖の生合成を糖鎖自身が制御する仕組みを発見

 岐阜大学糖鎖生命コア研究所の木塚 康彦教授、自然科学技術研究科修了生の長田菜緒子さんらの研究グループは、ミシシッピ大学、広島大学、大阪大学との共同研究で、タンパク質に付いた糖鎖1)の枝分かれ構造が、この枝分かれを作る酵素の働きを抑える、つまり特定の糖鎖が自分自身の生合成を抑えるという新たな仕組みを発見しました。
 タンパク質に付く糖鎖には膨大な種類があり、細胞の中で多くの糖鎖合成酵素により作られます。それぞれの糖鎖の量はこれら酵素の働きにより正しく制御され、それが疾患により異常となることが報告されていますが、酵素の働きを制御する仕組みはよくわかっていません。
 GnT-IVaとGnT-IVb2)はそれら糖鎖合成酵素の一つで、糖鎖の枝分かれを作ります。GnT-IVaを欠損するマウスは糖尿病様の症状を示すことから、GnT-IVaは糖尿病との関連が示されています。また、GnT-IVaと-IVbは、他の糖鎖合成酵素が持たないレクチンドメイン3),4)(糖鎖結合領域)を分子内に持っていますが、その役割は不明でした。本研究では、このレクチンドメインが、糖鎖を持つ基質5)タンパク質の認識に必要であることを明らかにしました。さらに、GnT-IVaと-IVb自身にも糖鎖が付いており、この酵素自身の糖鎖が枝分かれ構造を持つと、レクチンドメインに結合してその機能を阻害し、GnT-IVaと-IVbによる枝分かれ形成を低下させることがわかりました。
 本研究は、特定の糖鎖が自分自身の合成を阻害するという、糖鎖による自己抑制の仕組みを初めて示しました。以上の成果は、複雑な糖鎖形成の仕組みの解明と、糖尿病の病態解明や治療薬開発への応用が期待されます。
 本研究成果は、現地時間2024年9月27日付で『iScience』に掲載されました。また本研究は、文部科学省の大規模学術フロンティア促進事業「ヒューマングライコームプロジェクト」により支援を受けました。

本研究の概要図
本研究の概要図


発表のポイント

  • タンパク質に付いた糖鎖に枝分かれを作る酵素GnT-IVaとGnT-IVbは、特徴的なレクチンドメイン(糖鎖結合領域)を持つ
  • GnT-IVaと-IVbのレクチンドメインは糖鎖を付ける相手のタンパク質を見分ける
  • GnT-IVaと-IVb自身にも糖鎖が付いており、自分自身の糖鎖がレクチンドメインに結合する。この結合によって酵素の糖鎖枝分かれを作る働きが阻害される
  • 特定の構造の糖鎖が、同じ構造の糖鎖の合成を抑制するという、自己制御の仕組みを発見した

詳しい研究内容について

糖鎖の生合成を糖鎖自身が制御する仕組みを発見

論文情報

  • 1) 糖鎖:
    グルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖は数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。
  • 2) GnT-IVa, GnT-IVb:
    糖鎖を合成する糖転移酵素の一種で、細胞の中のゴルジ体に存在し、β1,4分岐という糖鎖の枝分かれ構造を作る。GnT-IVaとIVbはアミノ酸配列の類似性が高く、性質が極めてよく似ている。
  • 3) レクチン:
    様々な糖鎖や糖と選択的に結合するタンパク質の総称。糖鎖と結合するタンパク質であっても、抗体はレクチンに含まれない。ヒトの体内のレクチンは、先天性免疫などに重要な役割を果たす。
  • 4) ドメイン:
    タンパク質の構造の一部のうち、他の部分とは独立して折り畳まれた領域のこと。一般に、タンパク質は複数のドメインからなる。
  • 5) 基質:
    化学反応における出発物質のこと。反対に、化学反応の結果できるものを生成物(産物)と言う。酵素は、自身が触媒する反応において、特定の構造を持った基質を厳密に認識することから、基質と酵素は鍵と鍵穴の関係に例えられる。