研究・採択情報

インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)がグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることをリアルワールドデータで発見

 岐阜大学/関西電力医学研究所/関西電力病院の共同グループは、2型糖尿病治療におけるインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)(*1)の使用が、1mgグルカゴン静脈負荷試験(*2)によるグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることを世界で初めて報告しました。
 グルカゴン負荷試験はインスリン分泌能の評価法の一つとして、糖尿病診療において広く使用されています。我々は、これまでに2型糖尿病のヒトにおいてGLP-1受容体作動薬を開始する際、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌評価が有用であることを報告していました(Usui R, et al. J Diabetes Complications. 2015)。
 グルカゴン負荷試験の機序として、膵β細胞においてグルカゴン受容体が発現しており、直接刺激でインスリン分泌促進シグナルの増幅経路が活性化されると考えられていました。しかし近年、グルカゴンはグルカゴン受容体のみならずGLP-1受容体をも介してインスリン分泌を示すことが基礎的研究で報告されており注目されています。今日の臨床においては、同じインクレチン関連薬の1種であるDPP-4阻害薬が広く使われており、さらにGLP-1受容体作動薬の使用も増え2型糖尿病の7割近くの患者さんに使用されています。この状況を踏まえると、インクレチン関連薬を使用している状態におけるグルカゴン負荷試験は、膵β細胞機能を正しく評価できているのか否かを明らかにする必要に迫られていました。本研究では、当研究所においてこれまで蓄積した多数例の解析によって、インクレチン関連薬を使用している群においては、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌が使用していない患者群で予想されるよりも明らかに低いことが示されました。
 このことから、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌促進は、グルカゴンがGLP-1受容体を介したシグナルを刺激している可能性がヒトでも確認されました。つまりDPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬を使用することにより、GLP-1受容体そのものあるいはその下流におけるシグナルがグルカゴン刺激に対して抑制的な状態があると推察されました。詳細なメカニズムについては今後さらに検討が必要ですが、本研究によってインクレチン関連薬を使用している群におけるグルカゴン負荷試験では、インスリン分泌能の過小評価が懸念され、結果の解釈には十分注意が必要であることが示されました。
 本研究成果は、2024年8月28日に米国糖尿病学会の機関誌「Diabetes」で公開されました。

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研究結果の概要図

発表のポイント

  • グルカゴン負荷試験は膵臓からのインスリン分泌能力を血糖値に左右されずに評価できるとされ、1型、2型糖尿病の鑑別や治療薬剤の選択において臨床的に有用な検査とされています
  • 本研究は、2型糖尿病のヒトでインクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)を使用している際に、グルカゴン静脈負荷試験によるグルカゴン応答性インスリン分泌が低下することを、これまでの多数例の臨床データ解析により明らかにしました
  • インクレチン関連薬使用時には、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌能の過小評価が懸念され、インクレチン関連薬使用時には他の検査による評価が必要です
  • 本研究によりグルカゴンによるインスリン分泌機構に、新たなメカニズムの存在が示唆されました

詳しい研究内容について

インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)がグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることをリアルワールドデータで発見

論文情報

用語解説

  • *1 インクレチン/インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬):
    インクレチンは、食事に応じて消化管から分泌される消化管ホルモンで、GLP-1とGIPがあり、膵β細胞を刺激してインスリン分泌を促進する役割を持っています。インクレチン関連薬は、このホルモンの作用を利用して血糖値を低下する糖尿病治療薬です。GLP-1受容体作動薬は、インクレチンの一種であるGLP-1の受容体に作用し、インスリン分泌を促進するとともに、グルカゴン分泌を抑制します。DPP-4阻害薬は、インクレチンを分解する酵素であるDPP-4を阻害することで、体内のインクレチン濃度を高め、血糖降下作用を持続させます。
  • *2 1mgグルカゴン静脈負荷試験 :
    1mgグルカゴン静脈負荷試験は、糖尿病患者のインスリン分泌能を評価するために行われる検査です。グルカゴンは、膵臓のα細胞から分泌されるホルモンで、血糖値を上昇させる働きを持つほか、β細胞を刺激してインスリン分泌を誘導することが知られています。この試験では、被験者に1mgのグルカゴンを静脈内に投与し、その6分後の血中Cペプチドの濃度変化を測定することで、残存するβ細胞の機能を評価します。特に、インスリン分泌がどれだけ刺激されるかを見ることで、糖尿病の進行度や治療の効果を確認するために用いられます。