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若年成人男性における脂肪性肝疾患の実態と食行動との関連を調査

 近年、肥満人口の増加により非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD) 1)に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされています。また、NAFLDの名称における差別や偏見の解消を目的として2023年に脂肪性肝疾患の新定義metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD) 2)が提唱されました。岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授、三輪貴生医師らのグループは、若年成人男性のMASLDの実態と食行動との関連を明らかにしました。
 本研究では、健康診断を受診した男子大学院生322名を対象とし、腹部超音波検査によりMASLDの実態を明らかにし、日本肥満学会の推奨する食行動問診表3)を用いて食行動との関連を検討しました。年齢中央値22歳の若年成人男性において11%が MAFLD、16%がNAFLDをそれぞれ有していました。MASLDを有する者の食行動問診表の合計点数はMASLDのない者と比較して有意に高いことが明らかとなりました。また、restricted cubic spline analysis 4)では食行動問診表の合計点数が上昇するにしたがって、MASLDおよびNAFLDのリスクが上昇することが示されました。さらに、決定木解析5)およびランダムフォレスト解析6)の結果、食行動の評価項目のうち「体質や体重に関する認識」がMASLDを規定する第一の食行動評価項目でした。個別の質問項目を含む決定木解析およびランダムフォレスト解析では、「他人よりも肥りやすい体質だと思う」という項目がMASLDの層別化に最も寄与する質問項目でした。
 三輪貴生医師らの研究により年齢中央値22歳の若年男性の11%にMASLDがあり、MASLDの有無と食行動に関連があることが示唆されました。本研究成果から、食行動問診表を用いてMASLDにおける食行動の「くせ」や「ずれ」を抽出することで、MASLD改善のための食行動改善のポイントを明らかにし、認識や行動の変容につながることで、脂肪性肝疾患の改善と健康寿命の延長に寄与することが期待されます。
 本研究成果は、日本時間2024年1月25日にScientific Reports誌で発表されました。

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発表のポイント

  • 2023年に脂肪性肝疾患の新定義としてmetabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)が提唱されたが、その実態や食行動との関連については明らかではない。
  • 本研究では、322名の健康診断データを用いて、若年成人男性の約16%に非アルコール性脂肪性肝疾患が存在し、約11%にMASLDがあることを明らかにした。
  • 食行動との関連については、日本肥満学会の推奨する食行動問診表で合計点数が高いほどMASLDのリスクが増加し、特に「体質や体重に関する認識」がリスク上昇との関連が強いことが示唆された。
  • 本研究により、脂肪性肝疾患につながる食行動を把握し、若年から食行動を是正することで将来的な肝疾患リスクの低減に寄与することが期待される。

詳しい研究内容について

若年成人男性における脂肪性肝疾患の実態と食行動との関連を調査

論文情報

    • 雑誌名:Scientific Reports
    • 論文名:Usefulness of a questionnaire for assessing the relationship between eating behavior and steatotic liver disease among Japanese male young adults
    • 著 者:Takao Miwa1,2,3, Satoko Tajirika1,2,3, Tatsunori Hanai2,3, Nanako Imamura1, Miho Adachi1,3, Ryo Horita1,3, Taku Fukao1,3, Masahito Shimizu2,3, and Mayumi Yamamoto1,3,4
    • 所属:
      1 岐阜大学保健管理センター
      2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学分野
      3 岐阜大学医学部附属病院
      4 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科
    • DOI: 10.1038/s41598-024-52797-8

用語解説

    • 1) 非アルコール性脂肪性肝疾患
      従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。NAFLDの診断は脂肪肝の原因となる他の肝疾患の除外に基づく。NAFLDの診断概念より過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも肝硬変や肝発癌を来たす可能性があることが広く認知された。
    • 2) Metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease(MASLD)
      MASLDは2023年に欧州肝臓学会、米国肝臓病学会、ラテンアメリカ肝疾患研究協会などが合同で、NAFLDなどの脂肪性肝疾患の病名を新しく定義したものである。変更理由は従来のNAFLDに含まれる"alcoholic"および"fatty"は不適切用語であると見なされたためである。MAFLDは脂肪肝に加えて「肥満」、「2型糖尿病」、「高血圧」、「脂質異常症」のいずれかが併存することで診断する。
    • 3) 日本肥満学会の推奨する食行動問診表
      日本肥満学会の推奨する食行動問診表は、55の質問からなり、それぞれの質問を「そんなことはない:0点」、「時々そういうことがある:1点」、「そういう傾向がある:2点」、「まったくその通り:3点」の4段階で評価する。質問に対する回答から「体質や体重に関する認識」、「食動機」、「代理摂食」、「空腹・満腹感覚」、「食べ方」、「食事内容」、「食生活の規則性」の7項目を評価する。食行動問診表により食習慣の「くせ」や「ずれ」を把握することで食行動における具体的な対策を練ることを可能とする。
    • 4) Restricted cubic spline analysis
      Restricted cubic spline analysisは、統計学において非線形関係をモデリングするための一手法である。この分析手法は、特に医療統計や生物統計学でよく用いられ、リスク因子とアウトカム間の関係を探る際に有用な手法である。
    • 5) 決定木解析
      決定木解析はデータの中から決定木と呼ばれる樹形図を作成して解析する方法である。決定木は目的の予測や目的に影響している因子の検証に活用することが可能であり、機械学習、マーケティング、意思決定などの場面で利用される。
    • 6) ランダムフォレスト解析
      ランダムフォレスト解析はデータ全体の中からランダムにデータを抽出して複数の決定木解析を行い、最終的に複数の決定木の平均を求めることで精度の高い結果が得られる解析方法である。

2024.01.31

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