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脱水型触媒による環境に優しく効率的な化学プロセスを開発 -アセチレンに隣接する不安定炭素カチオン種の発生法-

 近年、環境への負荷を最小限に抑えるための環境に配慮した化学プロセスの開発が求められています。その中でも「脱水反応」は、不要な廃棄物を出さず、環境にやさしい手法であり、様々な化学プロセスへの応用が期待されています。
 この度、岐阜大学教育学部 吉松三博教授のグループは、強力な脱水作用を有する触媒の開発に成功しました。この触媒は、カチオン性インジウムと特異なリガンドを有する場合に強力な脱水剤としてはたらくため、脱水反応を容易にします。
 吉松教授らは本論文において、今まで困難であった不安定カチオン種の発生に対してこの触媒が有効であることを報告しました。そして、今回開発した方法は、保護・脱保護過程を必要とせず、有害なハロゲンなどの廃棄物を出さない新たな化学プロセスです。また、本論文において、抗癌活性のあるコルヒチン誘導体やパーキンソン病治療薬の形式合成にも成功しています。今後、持続可能な開発が求められる時代において、脱水プロセスを強力に進めることができる触媒は、新たなものづくりの切り札として化学分野で広く用いられることが期待されます。
 本研究成果は、日本時間2023年12月16日にCommunications Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

20240112_0.png 本研究の概要図

発表のポイント

  • アルコールを強力に脱水できる触媒を開発し、今まで発生が困難であった炭素カチオン1)種を良好に発生できるようになった。
  • 発生した炭素カチオン種は、炭素-炭素、炭素-酸素、炭素-窒素結合形成が簡単に進み、複雑な分子を簡単に構築できる。本論文では、パーキンソン病治療薬などの医薬品や天然物の合成例を示した。
  • 持続可能な開発のためには、環境負荷の小さな化学プロセスが求められる。脱水過程は廃棄物が水のみであり、これからの化学プロセスの柱となる手法である。今後、保護・脱保護2)過程を含まない本法を用いた様々な化学プロセスの開発が期待できる。

詳しい研究内容について

脱水型触媒による環境に優しく効率的な化学プロセスを開発
  アセチレンに隣接する不安定炭素カチオン種の発生法

論文情報

  • 雑誌名:Communications Chemistry (2023)6:279
  • 論文名:Cationic indium catalysis as a powerful tool for generating α-alkyl propargyl cations for SN1 reactions
  • 著 者:Mitsuhiro Yoshimatsu, Hiroki Goto, Rintaro Saito, Kodai Iguchi, Manoka Kikuchi, Hiroaki Wasada, Yoshiharu Sawada
  • DOI:10.1038/s42004-023-01048-4
  • 論文公開URL: https://www.nature.com/articles/s42004-023-01048-4
  • 用語解説

    • 1) 炭素カチオン
      アルコールの脱水反応によって発生できる陽電荷をもった活性種であり、高い反応性のために多くの生成物を与える。その制御が難しいが、合成反応として多用されている。
    • 2) 保護
      化学反応を進める際の不都合を取り除くため、その要因をブロックあるいは進みやすいように不具合を取り除く操作をいう。

2024.01.12

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