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タマネギのケルセチンは文章表現の維持に役立つ ~ヒト介入試験で軽度認知障害や早期認知症に伴い低下する認知機能のうちの"表現"の維持に役立つ機能を報告~

 高齢化に伴う認知症の増加は、高齢化が進んでいる日本においては喫緊な課題です。近年では、認知症施策推進大綱(令和元年)がとりまとめられ、認知症基本法が成立し(令和5年)、認知症とともに生きられる「共生」と発症を遅らせる「予防」の重要性が示されています。特に、食生活に基づく行動心理症状注1や認知機能低下の軽減が期待されています。東海国立大学機構 岐阜大学、農研機構、北海道情報大学等の研究グループは、野菜、特にタマネギに多く含まれる「ケルセチン」の認知および心理機能に及ぼす作用をこれまで研究してきました。
 今回、岐阜大学において、軽度認知障害注2と発症早期の認知症(アルツハイマー病)注3の被験者19人を対象に、ケルセチンを高含有するタマネギ粉末またはケルセチンを含まないタマネギ粉末を12週間毎日摂取していただき、摂取前後にミニメンタルステート検査注4を実施しました。その結果、ケルセチンを多く含むタマネギ粉末を摂取した人は、ケルセチンを含まないタマネギ粉末を摂取した人に比べ、文章記述の点数が有意に高いことが確認されました。さらに、単語を詳しく検討すると "良い"、 "楽しい"などの前向きな表現を示す形容詞の記述が増え、また単語のつながりのある記述が増えていることが分かりました(図1)。この結果は、普段食するタマネギが、認知症発症前後に経験する"単語が思い出せない"などの想起障害に対して役に立つ可能性を示しています。
 本研究成果は、現地時間7月21日(金)に「Heliyon」のオンライン版で公開されました。

20230726.png 図1 記述された単語の
  ネットワーク図

Text Mining Studio version 6.4(NTT DATA)ソフトウエアを用いて、ミニメンタルステート検査で記述された文章から作成された単語のネットワーク図を示しています。矢印は文章内の単語(記述通りに記載)のつながりを示しています。

発表のポイント

  • 軽度認知障害及び発症早期の認知症を対象者として、タマネギ加熱粉末を12週間摂取するプラセボ対照ランダム化二重盲検比較試験を実施しました。
  • 摂取前後のミニメンタルステート検査項目の文章記述の点数を比較し、プラセボ食品に比べケルセチンを多く含むタマネギ(被験食品)で有意な改善効果を認めました。
  • 文章解析では、前向きな表現を示す形容詞の記述が増え、また単語のつながりのある記述が増えていることが分かりました。
  • 正常加齢者へのケルセチンを多く含むタマネギ摂取による前向きな気持ちの維持作用が、認知機能低下が始まった状態でも役立つことが示唆されました。

詳しい研究内容について

タマネギのケルセチンは文章表現の維持に役立つ
   ヒト介入試験で軽度認知障害や早期認知症に伴い低下する認知機能のうちの"表現"の維持に役立つ機能を報告

論文情報

  • 雑誌名:Heliyon
  • 論文名:Continuous intake of quercetin-rich onion powder may improve emotion but not regional cerebral blood flow in subjects with cognitive impairment
  • 著 者:Yuichi Hayashi, Fuminori Hyodo, Tana, Kiyomi Nakagawa, Takuma Ishihara, Masayuki Matsuo, Takayoshi Shimohata, Jun Nishihira, Masuko Kobori, Toshiyuki Nakagawa
  • DOI番号: 10.1016/j.heliyon.2023.e18401 

用語解説

  • 注1 行動心理症状:
    認知症の症状は、物忘れ等の「中核症状」と精神や行動面の症状である「周辺症状」がある。行動心理症状はこのうちの周辺症状に相当し、徘徊、暴力、抑うつ、幻覚などの症状があります。
  • 注2 軽度認知障害:
    自立した日常生活と全般的な認知機能に問題はありませんが、物忘れや記憶力の低下が存在する状態で、毎年10-15%が認知症(アルツハイマー病)に移行するとされており、前段階と考えられます。
  • 注3 認知症:
    本試験の認知症の被験者は、臨床所見と脳血流シンチ検査の結果から、アルツハイマー病と考えられます。アルツハイマー病脳では神経原線維変化とβ-アミロイドの沈着が特徴です。β-アミロイドは発症の十数年前から沈着することが分かっています。発症初期には、記憶の障害、無気力やうつ症状も見られることがあります。
  • 注4 ミニメンタルステート検査:
    認知機能障害が疑われる場合に実施するスクリーニング検査の一つで、時間や場所の見当識、3単語の想起、計算、物品呼称、文章復唱、口頭指示、文章記述、図形模写の項目があり、すべて正解すれば30点満点です。

2023.07.26

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