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若年成人男性における代謝異常関連脂肪性肝疾患とアルコール関連肝疾患の実態とスクリーニング法の確立

 肥満人口および問題飲酒の増加に伴い、脂肪性肝疾患に伴う肝硬変、肝発癌、心臓血管病などが問題とされています。東海国立大学機構 岐阜大学保健管理センター 山本眞由美教授らのグループは、若年成人男性の代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)1)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)2)、およびアルコール関連肝疾患(ALD) 3)の現状と健康診断におけるスクリーニング法を明らかにしました。
 本研究では、健康診断を受診した男子大学院生313名を対象とし、MAFLD、NAFLD、およびALDの現状に関して調査しました。平均年齢23歳の若年成人男性においてNAFLDは17%、MAFLDは11%、ALDは1%にそれぞれ合併しました(図1)。若年世代では健康診断において腹部超音波検査を実施しないため、本研究における実態調査は世界に類を見ない貴重な研究成果となりました。また、健康診断等において全例で腹部超音波検査を実施することは困難であるため、健康診断で測定する身体所見、血液生化学検査および問題飲酒に関する質問票(AUDIT)4)のデータを用いてこれらの肝疾患をスクリーニングする方法を検討しました。MAFLDおよびNAFLDに関してはALT 5)およびBMI 6)がスクリーニングに有用な因子であり、ALDに関しては身体所見や血液生化学検査からスクリーニングすることは困難であり、AUDITがスクリーニング可能な唯一の方法であることが明らかとなりました。以上のことから、健康診断により若年成人男性におけるMAFLDおよびNAFLDをスクリーニングするにはALTおよびBMIが有用であり、AUDITを用いた問題飲酒の調査はALDのスクリーニングに有用であることが明らかとなりました。
 山本教授らの研究により平均年齢23歳の若年男性の脂肪肝の現状と健康診断におけるスクリーニング法が確立されました。本研究により健康診断は若年世代の脂肪性肝疾患を早期発見する貴重な機会であることが示され、健康診断結果に基づく生活習慣の是正が健康寿命の延長に寄与することが期待されます。
 本研究成果は、日本時間2023年5月18日にScientific Reports誌で発表されました。

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発表のポイント

  • 肥満人口の増加や過剰飲酒の問題により代謝異常関連脂肪性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝疾患、およびアルコール関連肝疾患は増加しているが、若年世代での実態や健康診断におけるスクリーニング法に関しては明らかではない。
  • 平均年齢23歳の若年成人男性において17%が非アルコール性脂肪性肝疾患、11%が代謝異常関連脂肪性肝疾患、1%がアルコール関連肝疾患を合併した。
  • スクリーニング法に関しては、血清alanine aminotransferase(ALT)値およびbody mass index(BMI)が代謝異常関連脂肪性肝疾患および非アルコール性脂肪性肝疾患と関連する因子であり、問題飲酒に関する質問票(alcohol use disorders identification test; AUDIT)がアルコール関連肝疾患と関連した。
  • 本研究により、若年成人男性における脂肪性肝疾患およびアルコール関連肝疾患の実態が明らかとなり、健康診断におけるスクリーニング法の確立、生活習慣の是正と肝疾患進展予防に寄与することが期待される。

詳しい研究内容について

若年成人男性における代謝異常関連脂肪性肝疾患とアルコール関連肝疾患の実態とスクリーニング法の確立

論文情報

  • 雑誌名:Scientific Reports
  • 論文名:Usefulness of health checkup for screening metabolic dysfunction-associated fatty liver disease and alcohol-related liver disease in Japanese male young adults
  • 著 者:Satoko Tajirika1,2, Takao Miwa1,2, Cathelencia Francisque3, Tatsunori Hanai2, Nanako Imamura1, Miho Adachi1, Ryo Horita1, Lynette J Menezes3, Masahito Shimizu2, and Mayumi Yamamoto1,4,5
  • 所 属:
    1 岐阜大学保健管理センター
    2 岐阜大学大学院医学系研究科内科学講座消化器内科学
    3 南フロリダ大学医学部
    4 岐阜大学医学部附属病院糖尿病代謝内科
    5 岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科医療情報学専攻
  • DOI番号:10.1038/s41598-023-34942-x

用語解説

  • 1) 代謝異常関連脂肪性肝疾患:
    代謝異常関連脂肪性肝疾患(metabolic dysfunction-associated fatty liver disease; MAFLD)は2020年に提唱された脂肪性肝疾患の新概念である。MAFLDは脂肪肝に加えて「肥満」、「2型糖尿病」、「2種類以上の代謝異常」のいずれかが併存することで診断する。MAFLDは脂肪性肝疾患の高リスク因子を包括した疾患概念であり、肝硬変、肝発癌、心血管疾患の高リスク患者を効率的に同定することが期待されている。
  • 2) 非アルコール性脂肪性肝疾患:
    従来脂肪肝は非アルコール性脂肪性肝疾患肝硬変(nonalcoholic fatty liver disease; NAFLD)とアルコール関連肝疾患に大別されてきた。NAFLDの診断は脂肪肝の原因となる他の肝疾患の除外に基づく。NAFLDの診断概念より過度な飲酒やウイルス性肝疾患などがなくとも肝硬変や肝発癌を来たす可能性があることが広く認知された。
  • 3) アルコール関連肝疾患(alcohol-related liver disease; ALD):
    アルコール関連肝疾患(alcohol-related liver disease; ALD)はアルコールの常用により引き起こされる一連の肝臓疾患のことである。日本における肝硬変症の成因の約25%を占め、近年ALDの増加が注目されている。
  • 4) Alcohol use disorders identification test; AUDIT):
    Alcohol use disorders identification test; AUDIT)は世界保健機関により開発された問題飲酒者のスクリーニングテストであり、問題飲酒の早期発見・早期介入を目的として利用される。AUDITは10項目の質問から成り、各項目の合計点で飲酒問題の程度を評価する。
  • 5) Alanine aminotransferase (ALT):
    Alanine aminotransferase (ALT)は肝細胞への分布が多い酵素であり、肝細胞の破壊の際に血中濃度が上昇する。その性質から血清中のALT濃度は肝障害の程度の指標として利用される。
  • 6) Body mass index(BMI):
    Body mass index(BMI)は体重と身長から算出される肥満度を示す簡易指標である。肥満症診療ガイドライン2022ではBMI ≥25kg/m2以上を肥満症と定義している。

2023.05.18

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