ニホンジカの生息個体数を高い空間解像度で推定 モニタリングデータの量・質にフィットした適切な統計モデルの構築によりローカルスケールにおける個体数変動の違いを検出
東海国立大学機構岐阜大学応用生物科学部 安藤正規准教授、同学部 附属野生動物管理学研究センター 池田敬特任准教授、国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所森林研究部門野生動物研究領域 飯島勇人主任研究員らは、岐阜県が長期的に収集してきたニホンジカの捕獲個体数や糞塊密度といったモニタリングデータ等を活用し、使用可能なデータにあわせた適切な統計モデル(ハーベストベースドモデル:HBM注1)) を構築することによって、県域全体といった広域単位で推定されることが多かったニホンジカの生息密度を5km2単位(狩猟メッシュ単位)注2) という高い空間解像度で推定することに成功しました。また、単一のHBM内で、生息頭数や捕獲圧などの地域差に基づくニホンジカの生息動向の違いを表現することが可能であることを実証しました。これまでのニホンジカの個体数推定は都道府県単位で実施されることが多く、市町村より狭い地域単位での生息状況を把握することは困難でしたが、本研究の成果を活用することによって捕獲や防除といった地域単位での対策を適切かつ効率的に検討・実施していくことが可能になります。今後、ニホンジカの保護管理において大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、日本哺乳類学会の発行する国際学術誌「Mammal Study」48号2巻(2023年4月発行)に掲載されました。
発表のポイント
- これまで都道府県スケールで推定されることが多かったハーベストベースドモデル(HBM)によるニホンジカの個体数推定において、岐阜県の収集したモニタリングデータに対してデータの質・量にフィットした適切なモデルを構築することにより、5km2単位という高い空間解像度で個体数を推定することに成功しました。
- 単一のモデルの中で、生息頭数や捕獲圧などの地域差に基づくニホンジカの生息動向の地域差を表現することが可能であることを実証しました。
- 空間解像度の高いニホンジカ生息個体数推定結果を活用することにより、市町村といった地域単位で適切かつ効率的な捕獲や防除等の対応を検討していくことが可能となります。
詳しい研究内容について
ニホンジカの生息個体数を高い空間解像度で推定
モニタリングデータの量・質にフィットした適切な統計モデルの構築により
ローカルスケールにおける個体数変動の違いを検出
論文情報
- 雑誌名:Mammal Study
- 論文名:Examination of the appropriate inference procedure in a model structure for harvest-based estimation of sika deer abundance.
- 著 者:Masaki Ando, Takashi Ikeda, Hayato Iijima
- DOI番号:10.3106/ms2021-0049
- 論文公開URL: https://doi.org/10.3106/ms2021-0049
用語解説
- 注1) ハーベストベースドモデル(HBM):
野生動物の個体数を捕獲数およびその他の観測データから推定する状態空間モデルの一種である。基本的な構造としては、個体数の経年推移を表現する過程モデルと、各種観測データが得られた際の観測値とその時点での生息個体数との関係を表現する複数の観測モデルから構成される。 - 注2) 5km2単位(狩猟メッシュ単位):
総務省の定めた標準地域メッシュ・システムに基づき、日本の国土には第1次地域区画(約80×80km)、第3次地域区画(約10×10km)およびは第3次地域区画(約1×1km)のメッシュが設定されている。多くの都府県では狩猟関連統計の集約において第2次地域区画の1/4にあたる約5×5kmを基本単位としたメッシュを採用しており、これは"5kmメッシュ"あるいは"狩猟メッシュ"と呼ばれている。