研究・採択情報

LINEで送る

15分程度で自己修復するエラストマーを実現 フッ素を利用した"うら返し"のマテリアルデザイン

 岐阜大学工学部三輪洋平教授のグループでは、フライパンの表面コートなどに利用されているフッ素成分をポリマー注1) に少量付加した場合、フッ素成分がポリマーに弾かれて集まる性質に着目し、新しいタイプのエラストマー注2) を開発しました(図1)。このエラストマーでは、フッ素成分が弾かれて集まることで、ポリマーを物理的に架橋注3) します(図1中央)。さらに、このエラストマーは、切断した傷口が自己修復により瞬時に接合し、15分程度で元通りに回復します(図1右)。一方で、フッ素成分のエラストマーの表面を覆って保護する効果により、切断した傷口同士以外では、エラストマーの接合は起こりません。また、フッ素成分にはテフロンとの親和性を高める効果もあります。そのため、このエラストマーを利用することで、一般的には接着が困難なテフロンを強く接着できることも明らかにしました。
 このエラストマーは優れたパフォーマンスを示す一方で、極めて容易に合成できることから、電気製品や雑貨のコーティング材料などへの実用化が期待されます。
 本研究成果は、日本時間2022年7月25日(月)18時にScientific Reports誌のオンライン版で発表されました。

20220725.png
図1.フッ素成分で架橋したエラストマー(PolyF)の構造と自己修復挙動

発表のポイント

  • 室温で自発的に損傷が自己修復するエラストマーはメンテナンスフリーという観点から有用性が高い。
  • 粘着性の高いポリマーに撥水・撥油性のフッ素成分を結合することで、表面はサラッとしているが、損傷部分はすばやく接合して自己修復するエラストマーを実現した。
  • フッ素成分の効果で、テフロンと強く接着可能となった。
  • 合成が極めて容易であることから、将来の実用化が期待できる。

詳しい研究内容について

15分程度で自己修復するエラストマーを実現
 フッ素を利用した"うら返し"のマテリアルデザイン

論文情報

  • 雑誌名:Scientific Reports
  • 論文名:Repulsive segregation of fluoroalkyl side chains turns a cohesive polymer into a mechanically tough, ultrafast self-healable, nonsticky elastomer
  • 著 者:Yohei Miwa, Taro Udagawa, Shoichi Kutsumizu
  • DOI番号:10.1038/s41598-022-16156-9
本研究は、主に、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ 研究領域「力学機能のナノエンジニアリング」(研究総括:北村隆行)における研究課題「イオン架橋の動的特性制御によるポリマー材料の高機能化」(研究者:三輪洋平(JPMJPR199B))の支援を受けて行われました。また、研究の一部では基盤研究C(19K05612)をはじめとする日本学術振興会 科学研究費助成事業、公益財団法人立松財団および公益財団法人江野科学振興財団の研究助成事業の支援を受けました。

用語解説

  • 注1) ポリマー:
    分子量が1万を超える様な巨大分子で、ひもの様に細長い分子形状をしている。プラスチックやビニールなどとして日常で利用されている。
  • 注2) エラストマー:
    室温で液体状のポリマーを部分的に架橋(橋架け)して得られるネットワーク状の分子形状を持ったポリマー材料。柔軟で弾力があり、数倍以上伸び縮みすることができる。一般的に、日常では"ゴム"とよばれている。靴底や輪ゴムなどの日用品だけでなく、化粧品、医療品、乗り物、家電、建築材料など、例をあげると枚挙に暇がないほど日常で幅広く使われている。
  • 注3) 物理的な架橋:
    共有結合によってポリマーを架橋するのではなく、水素結合やイオン結合、もしくは、特定の成分が集合する性質などの可逆的な結合や分子間相互作用を利用して物理的にポリマーを架橋する方法。共有結合による架橋とは異なり、加熱などによって、架橋を一時的に外すことができる。

2022.07.25

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク