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ケルセチンとその誘導体のがん転移抑制機構の一端を明らかにしました

 岐阜大学応用生物科学部山内恒生助教のグループは代表的なフラボノイド注1)であるケルセチンとその誘導体のがん転移抑制機構の一端を、標的タンパク質の結合様式を調査することにより明らかにしました。5種類のフラボノイドプローブを新たに合成し、これを使ったプルダウンアッセイ注2)により、ケルセチン誘導体の標的タンパク質としてmatrix metalloproteinase-1 (MMP-1) 注3)を同定しました。ケルセチンおよびその誘導体(3MQ)は MMP-1 を阻害しました。また、表面プラズモン共鳴(SPR)法により、ケルセチン誘導体とMMP-1 触媒ドメインとの濃度依存的な相互作用が示されました。また、核磁気共鳴分光 (NMR) 法により、3MQはMMP-1の金属イオン周辺と相互作用することがわかりました(図1)。フラボノイドプローブの開発により、新たな標的タンパク質発見の可能性が広がり、フラボノイドの多様な生理活性の中核的なメカニズムが明らかになると期待されます。
 本研究成果は、日本時間2022年6月6日にBioorganic & Medicinal Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

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図1. Quercetinとその誘導体のがん細胞遊走阻害機構

発表のポイント

  • 代表的なフラボノイドであるケルセチンとその誘導体はがんの転移を抑制することが報告されています。
  • フラボノイドの生理活性メカニズムを明らかにするための5種類の新しいフラボノイドプローブを合成しました。
  • このフラボノイドプローブを用いたプルダウンアッセイによりケルセチン誘導体の標的タンパク質としてMMP-1を同定しました。
  • ケルセチン誘導体は、MMP-1の活性中心である金属イオン付近に結合することで、MMP-1を阻害することを明らかにしました。
  • MMP-1は抗癌細の転移に関わるため、ケルセチン誘導体のがん転移抑制剤としての応用が期待されます。

詳しい研究内容について

ケルセチンとその誘導体のがん転移抑制機構の一端を明らかにしました
  フラボノイドプローブの開発及びケルセチン誘導体と標的タンパク質の作用様式の解明

論文情報

  • 雑誌名:Bioorganic & Medicinal Chemistry
  • 論文名:Development of flavonoid probes and the binding mode of the target protein and quercetin derivatives
  • 著 者:AyakaTsuchiya, Miho Kobayashi, Yuji O.Kamatari, Tohru Mitsunaga, KoseiYamauchi
  • DOI番号:10.1016/j.bmc.2022.116854
  • 論文公開URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0968089622002462

用語解説

  • 1) フラボノイド:
    植物中に広く分布するポリフェノールの一種。細胞や動物レベルで様々な生物活性が報告されている。
  • 2) プルダウンアッセイ:
    化合物と結合するタンパク質を調査するための一般的な方法の一つ。プローブと結合したタンパク質は沈殿を生じるため、これを回収してタンパク質の解析を行う。低分子化合物の標的タンパク質を同定することは、ドラッグデザインにおいて非常に重要とされている。
  • 3) MMP-1:
    がんの転移に関わるコラーゲン分解酵素のひとつ。細胞間コラーゲンを分解することで細胞同士が離れやすくなり、がん細胞の移動、転移が生じやすくなります。

2022.06.14

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