がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素GnT-Vは糖鎖をつけるタンパク質を選ぶ 〜GnT-Vの中のNドメインが鍵〜
岐阜大学糖鎖生命コア研究所(iGCORE)の木塚康彦准教授、自然科学技術研究科1年の大須賀玲奈さんらの研究グループは、大阪大学や広島大学などとの共同研究で、がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素GnT-V*1が、タンパク質を選んで糖鎖*2をつけることを発見しました。さらに、GnT-Vの一部であるNドメイン*3と呼ばれる領域が、標的となるタンパク質を選ぶ上で不可欠であることを明らかにしました。本研究は、特定の糖鎖がどのようにして特定のタンパク質につくのか、という疑問の解明に向けて重要な知見を与えるとともに、糖鎖が関わるがんの悪性化の仕組みの解明にも役立つことが期待されます。
本研究成果は、2022年1月30日(日)(日本時間)にThe Journal of Biological Chemistry誌のオンライン版で発表されました。

図.GnT-Vが作る糖鎖の枝分かれの形
発表のポイント
- GnT-Vは、細胞内で特定のタンパク質上の糖鎖に作用し、糖鎖を枝分かれさせる酵素である。
- これまでに、GnT-Vが作る糖鎖の枝分かれ構造は、がんの増殖・転移を促進させることがわかっている。しかし、GnT-Vがどのように特定のタンパク質のみに働くのかはわかっていなかった。
- GnT-V内に含まれる機能不明のNドメイン領域に注目した結果、GnT-Vは、Nドメインを介して標的となるタンパク質を直接選ぶことを明らかにした。
- 本研究によって、糖鎖が細胞内でタンパク質ごとに異なる形で作られる仕組みや、糖鎖が関わるがんの病態メカニズムの理解の進展が期待できる。
用語解説
- *1 GnT-V:糖鎖を合成する酵素(糖転移酵素)の一つで、細胞の中に存在し、β1,6分岐という糖鎖の枝分かれ構造を作る。
- *2 糖鎖:グルコース(ブドウ糖)などの糖が鎖状につながった物質。遊離の状態で存在するものもあれば、タンパク質や脂質に結合した状態のものもある。デンプン、グリコーゲンなどの多糖は数多くの糖がつながり、糖鎖だけで遊離の状態で存在する。一方タンパク質に結合したものは、数個から20個程度の糖がつながったものが多い。
- *3 Nドメイン:ドメインとは、タンパク質の構造の一部のうち、他の部分とは独立して折り畳まれた領域のこと。一般にタンパク質は複数のドメインからなる。GnT-VのNドメインは、触媒領域のN末端側に存在するドメインである。
詳しい研究内容について
がんの悪性化に関わる糖鎖合成酵素GnT-Vは糖鎖をつけるタンパク質を選ぶ
〜GnT-Vの中のNドメインが鍵〜
論文情報
- 雑誌名:The Journal of Biological Chemistry
- 論文名:
N-Acetylglucosaminyltransferase-V requires a specific non-catalytic luminal domain for its activity toward glycoprotein substrates - 著 者:Reina F. Osuka, Tetsuya Hirata, Masamichi Nagae, Miyako Nakano, Hiroyuki Shibata, Ryo Okamoto, Yasuhiko Kizuka
- DOI番号:10.1016/j.jbc.2022.101666
- 論文公開URL:https://www.jbc.org/article/S0021-9258(22)00106-5/fulltext