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ハイパー核の束縛エネルギー精密測定へ -ハイパートライトンパズルの解明に向けて-

 岐阜大学教育学部・工学研究科の仲澤和馬シニア教授、理化学研究所(理研)開拓研究本部齋藤高エネルギー原子核研究室の齋藤武彦主任研究員、東北大学大学院理学研究科の吉田純也助教、立教大学大学院人工知能科学研究科の瀧雅人准教授らの国際共同研究グループは、大強度陽子加速器施設「J-PARC」[1]においてK中間子[2]ビームが照射された写真乾板データを、独自に開発した機械学習[3]モデルによって解析し、ハイパー核[4]の一種である「ハイパートライトン[4]」の生成と崩壊の事象を可視的に検出することに成功しました。
 今回、国際共同研究グループは、物理シミュレーションと機械学習技術を組み合わせた解析手法を開発し、写真乾板データからハイパートライトンの生成と崩壊の事象を検出できることを実証しました。
 本研究は、科学雑誌『Nature Reviews Physics』オンライン版(9月14日付)で掲載されました。

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発見されたハイパートライトンの崩壊事象

発表のポイント

  • Mask R-CNN[5]という物体検出ネットワークを用いて、写真乾板に記録されているはずのハイパートライトンが崩壊した痕跡を検出する機械学習モデルを開発した。
  • 物理シミュレーションで生成したハイパートライトン事象を含んだ画像を、画風変換技術により、教師データとなる写真乾板の模擬画像に変換した。
  • 約1万枚の模擬画像を用いてMask R-CNNに学習させ、実際の写真乾板画像データを解析したところ、ハイパートライトンが写真乾板中で静止して、崩壊した痕跡を検出することに成功した。

補足説明

  • [1] 大強度陽子加速器施設「J-PARC」
    茨城県東海村に建設された、大強度陽子加速器と利用施設群の総称。Japan Proton Accelerator Research Complexの略。高エネルギー加速器研究機構(KEK)と日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で運営している。加速器で加速した陽子を原子核標的に衝突させることで発生する二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの研究や産業利用を行っている。
  • [2] K中間子
    中間子は、クォークと反クォークが一つずつ集まって構成される粒子。ストレンジクォークを含む中間子をK中間子と呼ぶ。
  • [3] 機械学習、ニューラルネットワーク
    機械学習とは、コンピュータを用いたデータ処理手法のうち、人間があらかじめ処理方法をプログラムするのではなく、大量のデータと正解例(教師データ)によってコンピュータに処理方法を構築させる技術。ニューラルネットワークは、機械学習に用いられる数理的モデルの一つで、生物の脳の神経回路網の仕組みを模したもの。ニューラルネットワークを用いた画像処理は2010年代半ば頃から急速に性能が向上し、現在ではさまざまな場面で応用されている。
  • [4] ハイパー核、ハイパートライトン
    ハイパー核は、通常の原子核を構成する陽子と中性子のほかに、ハイペロンという粒子が加わった原子核のこと。ハイパートライトンは、ハイパー核の中で最も軽く、陽子、中性子、ラムダ粒子(ハイペロンの一種)から構成される。
  • [5] Mask R-CNN
    2017年に発表された機械学習を用いた画像中の物体検出器。畳み込みニューラルネットワークを物体検出に導入したR-CNN(Regions with Convolutional Neural Network features)を高速化し、検出対象の物体の形(Mask)まで推定できるように改良したもの。

詳しい研究内容について

ハイパー核の束縛エネルギー精密測定へ
 -ハイパートライトンパズルの解明に向けて-

論文情報

  • 雑誌名:Nature Reviews Physics
  • 論文名:New directions in hypernuclear physics
  • 著 者:
    Takehiko R. Saito, Wenbou Dou, Vasyl Drozd, Hiroyuki Ekawa, Samuel Escrig, Yan He, Nasser Kalantar-Nayestanaki, Ayumi Kasagi, Myroslav Kavatsyuk, Enqiang Liu, Yue Ma, Shizu Minami, Abdul Muneem, Manami Nakagawa, Kazuma Nakazawa, Christophe Rappold, Nami Saito, Christoph Scheidenberger, Masato Taki, Yoshiki K. Tanaka, Junya Yoshida, Masahiro Yoshimoto, He Wang, Xiaohong Zhou
  • DOI番号:10.1038/s42254-021-00371-w

2021.09.15

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