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AIモデルの開発により、たった1回の実験で新規プロトン伝導性電解質を発見! ~中温動作燃料電池に用いる電解質材料の開発加速化に期待~

 岐阜大学工学部および理化学研究所の志賀元紀准教授は、九州大学エネルギー研究教育機構(Q-PIT)、稲盛フロンティア研究センターおよび大学院工学府材料物性工学専攻の山崎仁丈教授、九州大学稲盛フロンティア研究センターの兵頭潤次特任助教、九州大学大学院工学府材料物性工学専攻博士後期課程の辻川皓太氏、宮崎大学工学教育研究部の奥山勇治教授らと共同で、400℃程度で動作する固体酸化物形燃料電池(SOFC)注1)に必要なプロトン(H+)伝導性電解質注2)を探索する人工知能(AI)モデルを開発し、たった1回の実験で新規プロトン伝導性電解質を発見しました。これは、実験とデータ科学の融合により得られた研究成果です。開発したモデルを活用することで、プロトン伝導性電解質や中温動作固体酸化物形燃料電池の開発が大幅に加速されることが期待されます。
 本研究成果は、日本時間2021年8月4日(水)に米国化学会の国際学術誌「ACS Energy Letters」のオンライン速報版で公開されました。

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開発したAIモデルが未知材料SrSn0.8Sc0.2O3-δのプロトン伝導性を予測、それを実証しました(クリックすると拡大します)

発表のポイント

  • 65組成・761データで構成された信頼性の高い訓練データベースを構築し、本訓練データを、構成元素情報を示す80の記述子注3)およびプロトン導入反応の物理化学的知見とともに学習させることで、未知材料(CABO3)のプロトン濃度の温度依存性を予測するAIモデルを開発しました。
  • 開発したAIモデルを用いて、未知材料においてプロトン伝導性が発現する可能性が高い候補材料を12まで絞り込み、合成する試料を一つ選定しました。
  • この候補材料SrSn0.8Sc0.2O3-δを実際に合成し、実験を行った所、たった一回の試行で新規プロトン伝導性電解質を発見しました。

用語解説

  • 注1) 固体酸化物形燃料電池(SOFC)
    固体酸化物を電解質として用いた燃料電池。SOFC固体酸化物形燃料電池の英語名 (Solid Oxide Fuel Cells) の頭文字を取った略称。さまざまな燃料電池の種類の中で、最も高いエネルギー変換効率を有することが知られている。ただ、一般に固体酸化物は700~1000℃という高い動作温度でないと高いイオン伝導性を示さず、構成する材料が高価なものに制限される。動作温度を下げることで、材料コストや運転コストの低減が期待できる。燃料電池は水素と酸素を利用した次世代の発電システムであり、水の電気分解と逆の原理によって高効率に発電することができる。
  • 注2) プロトン伝導性電解質
    燃料電池において、プロトン(H+)だけを選択的に通し、電子やそのほかのイオンを通さない緻密な固体。
  • 注3) 記述子
    AIモデルでは、訓練データから目的変数yを予測する関数y = f(x1,x2,...,xn)を生成する。この関数における{x1,x2,...,xn }のことを記述子と呼ぶ。特徴量、説明変数とも呼ばれる。本研究では、材料を構成する元素の化学的特徴を物理化学的性質など数値化したものを用いた。

詳しい研究内容について

AIモデルの開発により、たった1回の実験で新規プロトン伝導性電解質を発見!
 ~中温動作燃料電池に用いる電解質材料の開発加速化に期待~

論文情報

  • 雑誌名:ACS Energy Letters
  • 論文名:Accelerated discovery of proton-conducting perovskite oxide by capturing physicochemical fundamentals of hydration
  • 著 者:Junji Hyodo, Kota Tsujikawa, Motoki Shiga, Yuji Okuyama, Yoshihiro Yamazaki
  • DOI番号:10.1021/acsenergylett.1c01239

謝辞

     本研究は、JST戦略的創造研究推進事業CREST(JPMJCR18J3)、科学研究費補助金・基盤研究(JP15H02287、 JP18H01694、JP16H02866)、学術変革領域研究(JP20H05884)、JST戦略的創造研究推進事業さきがけ(JPMJPR16N6)の支援を受けて行われました。ここに感謝申し上げます。

2021.08.05

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