タマネギのケルセチンは認知機能維持に役立つ -ヒト介入試験で加齢に伴い低下する認知機能維持に役立つ機能を報告-
高齢化が進む現在、食生活を介した認知症予防や加齢による認知機能低下の改善が期待されています。岐阜大学大学院医学系研究科の中川敏幸教授は、農研機構、北海道情報大学とともに、野菜や茶、果物等に広く含まれており、タマネギに特に多く含まれる「ケルセチン1)」の健康機能性に着目し、タマネギのケルセチンが認知機能に及ぼす影響を研究してきました。
今回、60-80歳の健康な男女70人に、ケルセチンを多く含む、またはケルセチンを含まないタマネギ粉末を約5か月間(24週間)毎日食べていただき、摂取前後に一般的な認知機能検査であるミニメンタルステート検査2)を実施しました。ケルセチンを多く含むタマネギを食べた人は、ケルセチンを含まないタマネギを食べた人に比べて、摂取後に検査の点数がより大きく増加することが確認され、タマネギのケルセチンが認知機能の維持に役立つことが示されました。本成果は、5月21日(金)に「J Clin Biochem Nutri」のオンライン版で公開されました。この結果は、日常の食事の中で摂取するタマネギが、加齢に伴い低下する認知機能の維持に役立つ可能性を示しています。

左:ケルセチンを多く含むタマネギ"さらさらゴールド"((株)植物育種研究所提供)
右:被験食品のタマネギ加熱粉末(1日分11g、ケルセチンとして50mg)
右:被験食品のタマネギ加熱粉末(1日分11g、ケルセチンとして50mg)
発表のポイント
- 認知機能について、ケルセチン高含有タマネギを食べた人は、一般的な認知機能検査(ミニメンタルステート検査)の点数が、ケルセチンを含まないタマネギを食べた人に比べて、摂取24週間後により大きく増加し、タマネギのケルセチンが認知機能の維持に役立つことが示されました。
- また、抑うつ状態については、ケルセチン高含有タマネギを食べた人は、iPadを用いた脳機能評価CADi23)の点数が、ケルセチンを含まないタマネギを食べた人に比べて、摂取24週間後により大きく低下し、タマネギのケルセチンが前向きな気分の維持にも役立つことが示されました。
- これらの結果から、日常の食事の中で摂取するタマネギが、加齢に伴い低下する認知機能の維持や前向きな気持ちの維持に役立つ可能性が示されました。
- 1) ケルセチン:
野菜、果物、茶等に広く含まれるポリフェノールのうちのフラボノイドの1種で、黄色を呈します。 - 2) ミニメンタルステート検査(MMSE):
一般的に使用される認知機能検査。11の質問からなり、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力について口頭で質問し、被験者に回答させます。一般に23点以下を認知症の疑いとする(認知症疾患診療ガイドライン)ことから、今回は24点以上の方を対象として試験を行いました。 - 3) iPadを用いた脳機能評価:
iPadを用いた脳機能評価であるCADi2(Cognitive Assessment for Dementia iPad Version)。島根大学医学部と株式会社テクノプロジェクトが開発したiPad向けアプリケーションで、認知症の患者や健康な人の脳の検査に用いられます。試験には、認知症に関連して起こる周辺症状である抑うつ状態のスコア(Self-rating Depression Scale;SDS)による気分の評価も含まれます。40点以上が軽度のうつ傾向と判定されます。
詳しい研究内容について
タマネギのケルセチンは認知機能維持に役立つ
-ヒト介入試験で加齢に伴い低下する認知機能維持に役立つ機能を報告-
論文情報
- 雑誌名:J Clin Biochem Nutri
- 論文名:
The effect of 24-week continuous intake of quercetin-rich onion on age-related cognitive decline in healthy elderly people: a randomized, double-blind, placebo-controlled, parallel-group comparative clinical trial. - 著 者:
Jun Nishihira, Mie Nishimura, Masanori Kurimoto, Hiroyo Kagami-Katsuyama, Hiroki Hattori, Toshiyuki Nakagawa, Takato Muro, and Masuko Kobori - DOI番号:10.3164/jcbn.21-17
- 論文公開URL:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcbn/advpub/0/advpub_21-17/_article/-char/ja