研究・採択情報

大学院連合創薬医療情報研究科 赤尾幸博教授ら,大腸がん増殖の仕組みを解明

研究成果のポイント

  • 今回,大腸がんが分泌する膜小胞※1に内包されたマイクロRNA(miRNA)-1246が,腫瘍血管※2の新生に深く関わっていることを明らかにしました。

研究成果

 このたび,本学大学院連合創薬医療情報研究科所属の赤尾幸博教授と山田名美研究員らの研究成果が国際科学雑誌(Biochimica et biophysica acta-Gene Regulatory Mechanism)オンライン版に9月10日付で掲載されました。
 がん細胞から分泌される膜小胞の機能は,①がん細胞同志の増殖の促進②がん細胞に不利になる遺伝子産物(薬物等)の排除③免疫担当細胞(リンパ球等)に対する攻撃の回避④腫瘍血管の構築など様々な遺伝子情報を変更(リプログラミング)すると考えられていました。しかしながら膜小胞の機能については,内包する物質が多岐にわたることなどから,膜小胞に内包された個々の物質が,どのように働いているのかを各々の物質について詳細に調べる必要がありました。
 赤尾幸博教授らの研究グループは,miRNA-1246に注目し,大腸がんが分泌する膜小胞に内包されたこの物質が腫瘍血管の新生に深く関わっていることを明らかにしました。
 大腸がんが存在すると,血液中のmi-RNA-1246の濃度は,健康な時と比べて増加します。したがって,この成果を応用すると,血液検査を行い,mi-RNA-1246の濃度を詳細に調べることで,これまで早期発見が難しかった大腸がんが,検診できるかもしれません。また,がん細胞が増殖するのに必要な腫瘍血管の構築がどのように行われているかが詳細に分かれば,その構築を抑制する薬の開発やがん細胞の予防につながることが期待できます。

研究内容

 膜小胞は,細胞間の原始的なコミュニケーションツールとして機能していることが2008年頃より明らかとなりました。特に,がん細胞が近隣のがん細胞に対して増殖に関わるメッセンジャーRNA(mRNA),miRNA,蛋白を膜小胞に包埋して分泌していることから, バイオマーカー※3の可能性が示唆されています(図1)。さらには腫瘍の微小環境(がん細胞の周囲に存在して栄養を送っている正常な細胞,分子,血管など)の構築,転移に関与することも明らかになりました。ただ,膜小胞の機能解析については,内包された様々な遺伝子産物が何か,またどんな働きをしているかなど,解決されなくてはならない問題は多いところです。このような状況で,大腸がん細胞の分泌膜小胞に内包されているmiRNA-1246が,がん周囲の間質細胞に導入され,血管内皮細胞に誘導することが分かりました。つまり,外部から遺伝情報が細胞に入り,その細胞の遺伝プログラムを修飾(リプログラミング)したことが明らかになりました。また,がんは分泌膜小胞を匠に利用して自らの腫瘍血管の造生を促進していることが明らかになりました。腫瘍血管の構築は栄養,増殖,さらに転移の引き金になることからこの現象が,がん細胞にとって重要な事象であることが分かりました。
 赤尾教授らは以前にも,今回と同様に,分泌膜小胞のmiRNA-92aが腫瘍血管の新生に関わっていることを発表しており,この知見が確証されたと考えています。

語句説明

  • 膜小胞:ベシクルとも呼ばれる小さなカプセル。カプセルを構成する壁が細胞膜のような構造をしているため膜小胞と呼ばれる。がん細胞から分泌されるRNAなどの遺伝物質は,人体にとっては,異物なのでがん細胞の外にでると人体の免疫機構から,攻撃を受ける。従って,がん細胞は,安全な膜小胞に遺伝物質を閉じ込めてがん細胞の外にそれらを分泌する。
  • 腫瘍血管:正常な細胞は,酸素と栄養の供給を血管に頼っているが,成人では新しい血管の構築は,ほぼ行われない。しかし,がん細胞は自らの生存と増殖を行うために新しい血管を健康な組織とは無関係に構築する。このようにがん細胞のためにつくられた血管を腫瘍血管という。
  • バイオマーカー:人の身体の状態を客観的に測定し評価するための指標となる物質。これらの物質が,体内でどのように増えているかを測ることで,健康状態や病気の進行度合いなどが分かる。

発表論文

  • Colorectal cancer cell-derived microvesicles containing microRNA-1246 promote angiogenesis by activating Smad 1/5/8 signaling elicited by PML down-regulation in endothelial cells.
    Yamada N, Tsujimura N, Kumazaki M, Shinohara H, Taniguchi K, Nakagawa Y, Naoe T, Akao Y.
    Biochim Biophys Acta. 2014 in press.
  • Role of Intracellular and Extracellular MicroRNA-92a in Colorectal Cancer.
    Yamada N, Nakagawa Y, Tsujimura N, Kumazaki M, Noguchi S, Mori T, Hirata I, Maruo K, Akao Y.
    Transl Oncol. 2013, 6(4):482-92.
  • 参考URL:http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S187493991400234X

2014.10.20

アイコンの詳細説明

  • 内部リンク
  • 独自サイト
  • 外部リンク
  • ファイルリンク