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土地の植生とヤギの食性の調査から、持続可能な土地管理システムを作る。


日本の人口が減少傾向にある中で,今後,耕作放棄地は確実に増加していきます。
管理する人手がなく草木に覆われた土地は,獣害や不法投棄の温床になりがちです。
人の手の代わりに生い茂る草を除草し,持続的に管理していく方法を構築するため
草食家畜の中でも扱いやすいヤギを使った土地管理の研究実験を行っています。

牛とヤギの首にGPSを付けて どこでどんな草を食べたかを把握。

 日本の畜産業は低コストの輸入飼料に依存して成り立っています。一方で,日本という国は温暖で降雨量も多く,植物が旺盛に育つ土地に恵まれています。ならばこの豊かな資源を飼料とした家畜生産のシステムを構築したい。その思いを出発点に,草食家畜の放牧による地域の植物資源の有効利用と土地管理の方法を研究しています。
 家畜を飼う上で最も重要なのは1日に食べるエサの量です。例えば牛なら,どれだけ食べて,どれだけの栄養分が摂れているかが,牛乳を出す量,つまり生産量に繋がってくるからです。日本では生産の効率化を求めた結果,放牧が減少しています。そこで,私は高山市の放牧地で実験を始めました。主な研究点は,購入する飼料や改良された牧草よりも質が劣る野草で栄養分がきちんと摂れて,牛が飼えるかということ。そのためにまず,事前にどこにどんな草が生えているかを調べて大まかな地図を作り,その地図上に,牛に付けたGPSの軌跡を重ね,牛がいつどこでどんな草を食べたかを把握します。同時に,食べた量を調べるため牛に加速度計を付けて,口を動かした回数を計測したり,口を動かしたときの振動音を録音します。振動音のデータは工学部電気電子・情報工学科情報コースの横田康成教授に解析してもらい,食べる振動と反芻(はんすう)による振動を識別してもらいました。これらのデータから1日に摂取した量や栄養分を推定していきます。

平成記念公園のプロジェクトでは,ヤギの後について,
どんな草を何口食べたかを地道に記録する行動観察も行っている。

 しかし,実験の最中に牧草地の閉鎖が決まってしまいました。そんな折,草食家畜を使った土地管理の研究に興味を持ってくださった,美濃加茂市と「農業生産法人フルージック」から共同研究のお話をいただきました。これは美濃加茂市にある平成記念公園の「里山再生プロジェクト」の一環です。日本昭和村を除いて,大部分が未開発の状態の公園を人が集まる場所として開発することを目的に,平成25年にスタートしました。


将来的には荒廃農地や被災地にも家畜を放牧し,土地再生に役立てたい。

高山市の放牧地で行った牛の採食行動調査。
首にGPSと加速度計を付け,食べた草の種類
と量を把握する。

 このプロジェクトでは,ヤギの放牧による除草を通して里山風景を再生し,維持する手法を研究しています。放牧は,ヤギが植物を食べ尽くして土地の植性にダメージを与えたり,逆に食べきれずに元の荒廃した状態に戻らないようにする必要があります。そのバランスポイントを探るため,1ヘクタール(1万平方メートル)の土地を二分割し,9頭と7頭の2グループに分けて実験しています。具体的には,単位面積に何頭のヤギを放せば何日間で除草できるのか。また,どこでどんな草をどれだけ食べるのか,草だけで栄養摂取ができるのか,といった牛の放牧と同様の調査を学生と一緒に行っています。ヤギの放牧実験は継続的に行われた例がなく,5年間継続できる今回の研究はまとまったデータを得る絶好の機会です。
 人が入れないような荒廃農地や被災地でも,家畜を使って土地管理ができるように,持続可能なシステムを構築したいと思っています。

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